the kisuke3-5のブログ

主に鳥や恐竜について書いていきたいと思っています。まだ勉強中の身です。よろしくお願いします。

鳥類の進化:竜骨突起を持った2つの分類群の共通点と相違点

鳥類は今から約1億5000万年前に、爬虫類(恐竜)から進化して、出現しました。鳥の最大の特徴と言えば空を飛べることではないかと思います(ペンギンなど例外もいますが)。飛べる鳥には大きな翼と左右非対称の初列風切羽、発達した胸筋があります。しかし初期の鳥である始祖鳥は大きな翼と初列風切羽はあったものの、胸筋が発達してなく、飛べたとしてもハトほどうまくは飛べなかったと考えられています(バードリサーチニュース2020年5月:3)。では、発達した胸筋を持った鳥はいつごろ出現したのでしょうか?

 

発達した胸筋を持った鳥は白亜紀に出現

鳥の胸部は筋肉だけでなく骨も非常に発達しています。胸骨には「竜骨突起」という部分があり、翼を羽ばたかせるために使われる筋肉が付着しています。竜骨突起を持った鳥は白亜紀(1億4000万年前~6600万年前)に出現しました。この鳥類群を「鳥胸類」と言います。この鳥胸類は真鳥形類とエナンティオルニス類の2つの分類群で構成されています(図1、Brusatte et al. 2015、Zhao et al. 2017 青塚 2018)。現生種はすべて真鳥形類に含まれています。尚、ダチョウなど竜骨突起がない種も一部います。しかしこれらは二次的に消失したのであって、これらの種も竜骨突起があった種から進化したと考えられています(Harshman et al. 2008)。今回、真鳥形類とエナンティオルニス類の形態的な共通点と相違点を紹介したいと思います。

 

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図1.鳥類の系統樹と進化の概略図。上の数値は年代(単位:億年)。Zhao et al. (2017) 、Brusatte et al.( 2015)、Fastovsky & Weishampel (2015) を参考に作成。

 

真鳥形類とエナンティオルニス類の共通点

真鳥形類とエナンティオルニス類には、竜骨突起がある事以外にも様々な共通の特徴があります。まず、この2つの分類群には、胸骨と肩甲骨、烏口骨の3つの骨から構成される「三骨間孔」がありました(図2)。これは翼を打ち上げるときに使う筋肉と上腕骨をつなぐ腱が通る孔です。そのため、翼を体より高い位置に持ち上げることができました(ギル 2009)。この三骨間孔と竜骨突起があったことから、それまでの鳥類と比べて高い飛翔能力を持っていました。また、手を構成する骨である、手根骨と中手骨の癒合も起きています(フェドゥーシア 2004)。更に、現生種は普段は翼を折りたたんでいますが、このようなことができるのは真鳥形類とエナンティオルニス類だけと考えられています(図1、ギル 2009、Fastovsky & Weishampel 2015)。

 

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図2.ハトの胸骨とその周辺の骨。Mayr (2017)のFig.1とFastovsky & Weishampel 2015の図 10・1を参考に描いた。 

 

真鳥形類とエナンティオルニス類の違い

エナンティオルニス類と真鳥形類には様々な共通点がある一方で、違いもいくつかありました。大きな違いとして言われているのは、烏口骨と肩甲骨の関節面です。真鳥類は烏口骨が凹んでいるのに対して、エナンティオルニス類は烏口骨が凸状になっていました(Walker 1981、Brusatte et al. 2015)。また、真鳥形類の腹肋骨がありませんが、エナンティオルニス類にはありました(Fastovsky & Weishampel 2015)。更に真鳥形類の方がエナンティオルニス類より、竜骨突起が大きい傾向にありました(Mayr 2017、Zhao et al. 2017)。この事から、真鳥形類の方が飛翔能力は高かったのかもしれません。

他にも現生種とエナンティオルニス類の違いに限ると、歯の有無があります。しかし、真鳥形類の中にも歯をもつ種はいました。歯の消失は現生種の分類群で起きた進化と考えられています(図1、Fastovsky & Weishampel 2015)。

 

最後に

今回、発達した胸筋を持った白亜紀の鳥、真鳥形類とエナンティオルニス類の形態的な共通点と相違点を紹介しました。エナンティオルニス類は白亜紀の終わりに絶滅しました。この時、隕石の衝突によって起きたと考えられている地球規模の大量絶滅が起き、恐竜やアンモナイトなども絶滅しています。しかしエナンティオルニス類は白亜紀で最も繁栄し多様化した鳥類だったと考えられています(Brusatte et al. 2015)。もし隕石が衝突していなければ、今生きている鳥たちは今ほど繁栄できていなかったかもしれません。

鳥の体には他にも、体の各部に癒合した骨や大腿骨を前に突き出した姿勢など様々な特徴があります。このような進化がいつ起きたのか、今後このブログで説明できたらと思っています。

今後とも宜しくお願い致します。

 

参考文献

青塚圭一 (2018) 中生代の鳥類における骨格及び生態の進化 日本鳥学会誌 67 1 : 41–55

 

Brusatte S L O’Connor J K & Jarvis E D (2015) The origin and diversification of birds. Curr. Biol. 25, 888–898.

 

Fastovsky D E & Weishampel D B/真鍋真監修、藤原慎一、松本涼子訳 (2015) 恐竜学入門―かたち・生態・絶滅(日本語訳) 東京化学同人 396pp

 

フェドゥーシア A/黒沢玲子訳 (2004) 鳥の起源と進化(日本語訳) 平凡社 631pp

 

ギル B フランク/山岸哲監修、山科鳥類研究所訳 (2009) 鳥類学(日本語訳) 新樹社 746pp

 

Harshman J, Braun E L, Braun MJ, Huddleston CJ, Bowie R C K, Chojnowski J L, Hackett S J, Han K L, Kimball R T, Marks B D, Miglia K J, Moore W S, Reddy S, Sheldon F. H, Steadman D W, Steppan S J , Witt C C, Yuri T  (2008) Phylogenomic evidence for multiple losses of flight in ratite birds. Proceedings of the National Academy of Sciences. 105 13462–13467

 

Mayr (2017) Pectoral girdle morphology of Mesozoic birds and the evolution of the avian supracoracoideus muscle Journal of Ornithology volume 158: 859–867

 

Walker A C (1981) New subclass of birds from the Cretaceous of South America. Nature Vol. 292 51–53

 

Zhao T、Liu D & Li Z (2017) correlated evolution of sternal keel length and ileum length in birds. PeerJ 5 e3622 doi10.7717/peerj.3622

 

始祖鳥は飛べたのか? 現生鳥類を参考にした始祖鳥の研究(最終閲覧日:2020年7月2日)

https://db3.bird-research.jp/news/202005-no3/