the kisuke3-5のブログ

主に鳥や恐竜について書いていきたいと思っています。まだ勉強中の身です。よろしくお願いします。

鳥類と哺乳類の呼吸器の違いと、鳥類の呼吸器の進化について

人は呼吸をするとき、空気を吸う時のみ酸素が肺に送られます。しかし鳥の場合は違います。今回、鳥たちはどのように呼吸しているのか、また、呼吸器がいつごろ進化したのかについてご説明したいと思います。

 

鳥の呼吸器はどうなっているのか?

鳥が吸った空気は肺に入ってそのあと吐き出されるまで一方通行になっており、吸った空気をすべて肺まで届けています(図1、Fastovsky & Weishampel 2015)。

更に鳥の体内には「気嚢(きのう)」という器官があります。これは吸った空気を入れておく袋で、体中にあります。グンカンドリ類の首にある赤い袋も気嚢です(ギル 2009)。骨の中にもあり、気嚢がある骨は「含気骨(がんきこつ)」と言う空洞がある形状をしています。鳥たちは空気を吸う時、肺だけでなく、気嚢にも酸素が入るようになっており、息を吐いたとき、気嚢にとどめておいた酸素が肺に行くようになっています。次に呼吸するとき前回の呼吸で吸った空気をすべて吐くようになっています(図1)。

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図1.鳥が呼吸しているときの、空気の流れを示した図。ギル(2009)を参考に作成。吸い込んだ空気は息を吐くまでに後気嚢と肺に入る(上)。次の呼吸で、肺から前気嚢へ移動し吐き出す(下)。最初の呼吸で吸った空気が流れている場所はで示している。

 

人間など哺乳類の場合は、吸った空気が必ずしもすべて肺に到達するわけではありません(Fastovsky & Weishampel 2015)。また、前の呼吸で吸い込んだ空気が肺に残ってしまうこともあります(ギル 2009)。この事から、常に新鮮な空気を供給するという点では哺乳類よりも鳥の方がずっと優れた呼吸器をもっていると言えます。尚、哺乳類と鳥類の呼吸の違いは他にもあります。哺乳類は横隔膜を使って肺を動かし呼吸をしますが、鳥には横隔膜がありません。息を吸う時は胸骨を下げて、肺と気嚢を広げ、吐くときは胸骨と肋骨を縮めて気嚢を収縮して吐き出しています(ギル 2009)。

 

鳥の呼吸器官は飛ぶときにも役立っている!?

鳥は飛んでいる時も呼吸をしています(テネケス 1999)。そして飛ぶのは非常に激しい運動です。そのため、より多くの酸素が必要と考えられます。そうした時、この呼吸器は大いに役立っているのではないかと推測されます。また、含気骨は空洞になっており、強度に対して相対的には軽くなっていることが示唆されています(ポルトマン 2003、Butler et al. 2012)。鳥が飛ぶためには、翼と胸筋だけでなく呼吸器も重要な役割を果たしているようです。

 

鳥の呼吸器はいつごろ獲得したのか?

鳥と同じ呼吸器官は、恐竜にもあったと考えられています。マジュンガトルスの化石から空洞がある骨も見つかっており、これは含気骨だったのではないかと考えられています(図2、O’Connor & Claessens)。また、翼竜にも含気骨はあったと考えられています(Butler et al. 2012)。ワニやトカゲには気嚢はありませんが、一方通行の呼吸器官があることが分かっています(図2、Farmer & Sanders 2009、Schachner et al. 2014、Cieri et al. 2014)。トカゲと、ワニや鳥では系統的に少し離れており、一方通行の呼吸器官はこれらの共通祖先の段階から持っていたのか、それとも双方で独自に進化したのか、まだはっきりとはわかっていません(Schachner et al. 2014)。以上のことから、鳥の呼吸器は少なくとも、一方通行の呼吸器官はワニとの共通祖先、気嚢はワニと分岐した後には獲得していたことが分かっています。

 

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図2.爬虫類と鳥類の分岐図の概略。一方通行の呼吸器官があるとわかっている分類群は、更に気嚢もある分類群は太字で示している。分岐図はFastovsky & Weishampel (2015) と平山(2007)を参考に作成。恐竜の中にはは気嚢がなかったと考えられている種もいる(Butler  et al.2012)。

 

まとめ

今回、鳥の呼吸器は人と違って、空気の通り道が一方通行になっていることと、気嚢という空気を入れておける袋が体中にあること、一方通行の呼吸器はワニとの共通祖先、気嚢はワニと分岐後にはあった事を説明しました。この記事では説明しきれなかったこともありますので、もし興味を持たれましたら、この記事を作成するのに参考にした文献をご覧になってみてください。

 

参考文献

Butler R J, Barrett P M & Gower D J (2012) Reassessment of the evidence for postcranial skeletal pneumaticity in Triassic archosaurs, and the early evolution of the avian respiratory system. PLoS One, 7, e34094.

 

Cieri L R, Craven A B, Schachner R E & Farmer G C (2014) New Insight Into the Evolution of the Vertebrate Respiratory System and the Discovery of Unidirectional Airflow in Iguana Lungs. Proc Natl Acad Sci U S A

. 2014 Dec 2;111(48):17218-23. doi: 10.1073/pnas.1405088111.

 

Farmer G C & Sanders K (2010) Unidirectional Airflow in the Lungs of Alligators. Science 327 5963 338-340

 

Fastovsky D E & Weishampel D B/真鍋真監修、藤原慎一、松本涼子訳 (2015) 恐竜学入門―かたち・生態・絶滅(日本語訳) 東京化学同人 396pp

 

ギル B フランク/山岸哲監修、山科鳥類研究所訳 (2009) 鳥類学(日本語訳) 新樹社 746pp

 

平山廉 (2007) カメのきた道 甲羅に秘められた2億年の生命進化 NHK出版 205pp

 

O’Connor M P & Claessens M A P L (2005) Nature 436 253–256.

 

ポルトマン アドルフ/ 長谷川博訳 (2003) 鳥の生命の不思議 (日本語訳) どうぶつ社 195pp

 

Schachner ER, Cieri RL, Butler JP, Farmer CG (2014) Unidirectional pulmonary airflow patterns in the savannah monitor lizard. Nature 506 367–370.

 

テネケス ヘンク /高橋健次(訳) (1999) 鳥と飛行機どこがちがうか―飛行の科学入門 (日本語訳) 草思社201P