the kisuke3-5のブログ

主に鳥や恐竜について書いていきたいと思っています。まだ勉強中の身です。よろしくお願いします。

鳥の祖先に関する研究史 その2

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シノサウロプテリクスの化石体の周を覆う羽毛の痕跡が見つかった。

 

先日、「鳥の祖先に関する研究史 その1」と題して、1970年代までの主な研究についてブログに書きました。

urvogel3-5.hatenablog.com

今回はそのあとどのような研究があったかを書きたいと思います。

 

羽毛恐竜の発見

1996年、中国遼寧省で小型のコエルロサウルス類の化石が見つかりました。この恐竜には「シノサウロプテリクス(中華竜鳥)Sinosauropteryx prima」と命名されました(1)。シノサウロプテリクスの体の周りには羽毛の痕跡が見られます。この事から、恐竜にも羽毛があったことが分かりました。羽毛がある動物は鳥だけでしたので、この発見は鳥の祖先が恐竜であることをほぼ決定的にするような発見でした。更に2009年には始祖鳥がいたときよりもさらに前の時代の地層から羽毛が生えた恐竜の化石が発見されています。この恐竜には「アンキオルニス Anchiornis huxleyi 」と命名されました。種小名は、恐竜起源説を最初に唱えたトマス・ハスクリーからとっています(2) 。

 

前肢の指の矛盾点

鳥の祖先は恐竜ではないかと示唆される化石がたくさん出ていましたが、それでも1つこの説が事実なら大きな矛盾点となるものがありました。それが前肢の指です。鳥も、多くのコエルロサウルス類も前肢の指は3本ですが、指の番号が違うと指摘されていました。恐竜は人間でいう「親指・人差し指・中指」と考えられています。初期の恐竜には5本指がありあしたが、薬指と小指は進化の過程で喪失していることが発掘された化石から示唆されています。一方、鳥の方は発生学では「人差し指・中指・薬指」と考えられてきました。これが大きな矛盾となるという事が指摘されてたのです。

しかし、2011年に東北大学の研究によって、鳥の指も恐竜と同様「親指・人差し指・中指」であることが分かりました。この研究ではニワトリの指の発生過程について調査されています。前肢にはZPAという領域があります。発生段階の中で、指の番号が決まる時期があり、この時期にZPAにある指は薬指化小指になります。しかしニワトリの指はこの段階ではZPAにはありませんでした(3)。

以上の事から、大きな矛盾点が解消され、恐竜が鳥の祖先であるという説は、覆すことが極めて難しいほどの定説となりました。

 

まとめ

1861年に始祖鳥の化石が発見されて以来、鳥の祖先は恐竜ではないかという説について、様々な研究がされてきました。1996年以降、中国などで羽毛をまとった恐竜の化石が複数発見されるようになり、この説はかなり有力なものとなりました。そして、この説の矛盾点だった前肢の指の番号の問題も解決され、この説は覆すことが難しいものとなりました。

この事をブログに書くにあたっていろいろな文献を読みましたが、これが定説になるまでには、世界中のたくさんの恐竜研究者の苦労があったのではないかと思いました。また、先日のブログで書きましたが、この説に異論を唱えた研究者もいました。そういった方々がいたから、より議論が深まったのではないかと思います。

この説の研究にかかわったすべての方々に敬意を表します。

 

参考文献

  • Ji Q & Ji S (1996) On discovery of the earliest bird fossil in China (Sinosauropteryx gen. nov.) and the origin of birds. Chinese Geology (Beijing: Chinese Geological Museum) 10 233 30–33.

 

  • Xu X, Zhao Q, Norell M, Sullivan C, Hone D, Erickson G, Wang X, Han F & Guo Y (2009) A new feathered maniraptoran dinosaur fossil that fills a morphological gap in avian origin. Chin Sci Bull 54 430–435 https://doi.org/10.1007/s11434-009-0009-6