the kisuke3-5のブログ

主に鳥や恐竜について書いていきたいと思っています。まだ勉強中の身です。よろしくお願いします。

アンキオルニスは飛べたのか?

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アンキオルニスの復元図。色は(Li et al.2010)で復元されたパターンに基づいている。著作者:Matt Martyniuk氏 

アンキオルニスAnchiornis huxleyiは、2009年に中国で発見された羽毛恐竜の1種です(Hu et al. 2009)。始祖鳥が見つかった地層よりも古い時代の地層から見つかっており、それまで、鳥類の恐竜起源説の矛盾の1つとして指摘され続けてきた「始祖鳥よりも古い時代に生きていた羽毛恐竜の化石が見つかっていない」を解消した非常に大きな発見でした。また、アンキオルニスの羽毛の色を分析した研究もされました(Li et al. 2010)。

そして、アンキオルニスには羽弁を形成した羽毛の痕跡が腕の周辺に見られており、鳥類やミクロラプトルのように飛ぶことができた可能性があります。では、アンキオルニスの飛翔能力はどのくらいだったのでしょうか。今回、鳥類やミクロラプトルなどと比較しながら解説していきたいと思います。

 

地面から離陸するのは困難!?

結論から先に行ってしまうと、始祖鳥やミクロラプトルもハトほどうまく飛ぶことはできなかったと考えられていますが、アンキオルニスはそれよりももっと飛翔能力は低かったと考えられています。

始祖鳥やミクロラプトルの飛翔能力については、もしよければこちらをご覧ください。

db3.bird-research.jp

urvogel3-5.hatenablog.com

アンキオルニスは、地面から離陸することがかなり困難だったかもしれません。この事について分析した研究が3つあります。

まず、Dececchi et al. (2016) では、羽毛恐竜の体の大きさや、現生鳥類のデータをもとに、羽ばたいて走行した場合、離陸ができるだけの揚力を生み出すことができたのかなどを検証しています。この研究ではアンキオルニス2個体も対象となっていました。そのうちの1個体は、重力に勝てるほどの揚力を生み出すことはできないという結果になりました。もう一方は翼も使って5.1m/sで走れば揚力値が重力以上になる個体もいるという結果でした。一方、現生鳥類はもっと遅くても離陸することができています。また、この研究では始祖鳥やミクロラプトルについても分析されており、これらの種ももっと遅くても離陸できた可能性があるという結果になっています。

次にShahid et al.(2019)ですが、この研究では、アンキオルニスの翼の3Dモデルを設定し、揚力や抗力を計算しています。これらの結果は、平面上だとアンキオルニスが8m/sで走行したとしても、追い風が吹かないと滑空できないというものでした。

最後に、Pei et al. (2020) では、エウマニラプトル類の恐竜たちが自力で飛翔できたのか、胸部の筋肉量などの情報を使って検証されていています。以前、このブログでも紹介したことがあるので、詳しくはこちらをご覧ください。

urvogel3-5.hatenablog.com

この研究だとアンキオルニスは胸部の筋肉が287 W/kg発揮できれば、離陸できるという結果になっていました。ただ、この研究では、胸部の筋肉量を体重の10%で計算しており、アンキオルニスにそれほどの筋肉が胸部にあったか定かではありません。始祖鳥の胸部の筋肉は200gの個体で2gほどだったという報告もあります(Walter 2013)。飛べる鳥だと、胸部の筋肉は体重の10%以上ある種は多々いますが、この違いは竜骨突起の有無があります。始祖鳥やアンキオルニスには竜骨突起はありません。そうなってくるとアンキオルニスの胸部にそこまで筋肉がなかった可能性もあります。

 

飛ぶことができそうな翼

一方、飛べそうな翼を持っていた可能性は十分あると思っています。アンキオルニスの翼面荷重は飛ぶことができないとされる閾値をクリアしていました(Dececchi et al. 2016, Pei et al. 2020) 。地面からの離陸が困難であるなら、何らかの方法で木に登り、木々を滑空するといったことはできたかもしれません。しかし、鳥類やミクロラプトルと違って、初列風切羽は左右対称の形をしていました (Hu et al. 2009) 。初列風切羽が左右対称でも飛翔はできる可能性はあるものの (Dyke et al. 2013)、左右非対称の形の方が羽ばたきに適していると考えられています。また、初列風切羽は長さも短かったこともあり、翼の形状が鳥類とは少し違っています (Longrich et al. 2012) 。これらの事から、鳥類やミクロラプトルに比べると性能は劣っていたと考えられます。

 

最後に

今回、アンキオルニスの飛翔能力についてまとめました。先述の通り、アンキオルニスは始祖鳥よりも古い時代に生きていた恐竜です。アンキオルニスよりも始祖鳥の方が飛翔に適した形態だったというのはとても興味深く思います。鳥類の飛翔能力がどのような段階を経て進化しているのかを知るには、アンキオルニスの研究は欠かせないと思います。今後の研究の進展を注目していきたいと思います。

 

参考文献

Dececchi T A, rsson H C E, Habib M B(2016) The wings before the bird: an evaluation of flapping-based locomotory hypotheses in bird antecedents. PeerJ 4: e2159

 

Dyke G, Kat de R, Palmer C, Kindere der van J, Naish D & Ganapathisubramani B (2013) Aerodynamic performance of the feathered dinosaur Microraptor and the evolution of feathered flight. Nature Commun 4 2489 doi: 10.1038/ncomms3489; pmid: 24048346

 

Hu D, Hou L, Zhang L, Xu X (2009) A pre-Archaeopteryx troodontid theropod from China with long feathers on the metatarsus. Nature 461 (7264): 640–643.

 

Li Q, Gao K Q, Vinther J, Shawkey M D, Clarke J A, D'Alba L, Meng Q, Briggs D E G, Prum O R (2010) Plumage color patterns of an extinct dinosaur. Science 327 (5971): 1369–1372

 

Longrich N R, Vinther J, Meng Q, Li Q & Russell P A (2012) Primitive wing feather arrangement in Archaeopteryx lithographica and Anchiornis huxleyi. Curr Biol 22: 2262–2267.

 

Pei R, Pittman M, Goloboff A P, Dececchi A T, Habib B M, Kaye G T, Larsson E C H, Norell A M, Brusatte L S & Xu X (2020) Potential for Powered Flight Neared by Most Close Avialan Relatives, but Few Crossed Its Thresholds, Current Biology, https://doi.org/10.1016/j.cub.2020.06.105

 

Shahid F, Zhao J & Godefroit P (2019) Aerodynamics from cursorial running to aerial gliding for avian flight evolution. Appl Sci 9: 649.

 

Walter JB (2013) The Furcula and the Evolution of Avian Flight Paleontological Journal 47:1236–1244