the kisuke3-5のブログ

主に鳥や恐竜について書いていきたいと思っています。まだ勉強中の身です。よろしくお願いします。

ミクロラプトルと現生鳥類の翼の性能を比較

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ミクロラプトルの化石

ミクロラプトルは、白亜紀前期に中国に生息していた小型の肉食恐竜です。ミクロラプトルには前肢だけでなく後肢にも羽があり、翼になっていました。この4つの翼を利用して木から木へと滑空していたと考えられています。現生鳥類で後肢も翼になっている種はいません。木から木へ飛び移るくらいの飛翔能力と聞くと現生鳥類と比べてずいぶん劣っている印象を受けますが、ミクロラプトルの翼の性能はどのくらいだったのでしょうか?

 

翼面荷重と揚抗比

翼の性能を「翼面荷重」と「アスペクト比」と2つを用いて、現生鳥類と翼の性能を比較したい思います。

翼面荷重とは翼に加わる単位面積当たりの重量です。飛べない鳥ではこの数値が200N/㎡を超えます(Livezey C B 1990)。これを下回っていなければ、おそらく恐竜も飛ぶことはできないと思われます。また、体の大きさがほぼ同じで、翼面荷重がより大きいと、より速く飛ぶ必要があります(テネケス 1999)。

アスペクト比は翼の細長さを表しています。細長い翼であるほど、この数値は高くなります。また、アスペクト比が高いと、揚抗比も高くなります(テネケス 1999)。揚抗比とは揚力と抗力の比率です。風など「流れ」が当たった時、この流れの垂直方向に作用する力が「揚力」、同じ方向に作用する力が「抗力」です(図1)。抗力に対して、揚力が大きいと、揚抗比の数値が高くなり、エネルギーを節約して飛ぶことができるようになります(テネケス 1999)。

 

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図1.鳥が飛んでいるときに生じる力とその方向

速く飛べそうだがエネルギー消費が大きい翼

ミクロラプトルの体重は約1㎏あったと考えられています (Chatterjee & Templin 2007)。なので、体重が0.8~1.1㎏の鳥と、翼面荷重とアスペクト比を比較しました。また、一部は揚抗比も比較しました。

ミクロラプトルの翼面荷重は、飛べなくなる数値(200N/㎡)を大きく下回っており、ほぼ同じ大きさの鳥たちとでは、比較的大きい部類でした。一方、アスペクト比は比較的小さいようです(表1)。ノスリアスペクト比が近いようですが、揚抗比は倍近く違っています。ミクロラプトルの揚抗比は、Dyke et al. ( 2013)でモデルを作って実験した結果、安定した状態で飛んだ場合、揚抗比が最大4.6になりました。一方、ノスリの揚抗比は10あります。

これらの結果から、ミクロラプトルの翼は現生種と比べて、滑空だけならほぼ同等以上の速さで飛べるものの、エネルギーの消費が大きい翼だったと推測されます。

 

表1.ミクロラプトルと体重が0.8~1.1㎏の鳥の翼面荷重とアスペクト比、揚抗比一覧。ミクロラプトルの翼面荷重とアスペクト比は、Chatterjee & Templin (2007) 、揚抗比はDyke et al. ( 2013)を引用。現生種のデータはテネケス(1999)を引用して計算したもの。

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まとめ

ミクロラプトルと現生鳥類で翼の性能を比較すると、翼面荷重はほぼ同じではあるものの、アスペクト比や揚抗比は小さいので、全体的な翼の性能は現生鳥類ほど洗練していないということが分かりました。

元々、ミクロラプトルの翼は現生鳥類ほど洗練されていないと言われていたので、おそらくこのような結果になるだろうと予想してはいましたDyke et al. ( 2013)。しかし、比較する前は、ミクロラプトルの翼面荷重はもっと飛べない鳥たちに近い数値になるのかなと予想していたのですが、比較してみるとそんなことはなく、それどころか猛禽類やカモメなどに近い数値だったので、個人的にはこの結果は少し意外に感じました。エネルギーを節約して飛ぶことはできなかったものの、想像以上に発達した翼を持っていたんだなと思いました。

今後また、翼をもった恐竜と現生鳥類で翼の性能を比較してみたいと思います。

 

参考文献

Chatterjee S, Templin RJ (2007) Biplane wing planform and flight performance of the feathered dinosaur Microraptor gui. Proc Nat Acad Sci USA 104:1576–80.

 

Dyke G, Kat de R, Palmer C, Kindere der van J, Naish D & Ganapathisubramani B (2013) Aerodynamic performance of the feathered dinosaur Microraptor and the evolution of feathered flight. Nature Commun 4 2489 doi: 10.1038/ncomms3489; pmid: 24048346

 

Livezey C B (1990) Evolutionary morphology of flightlessness in the Auckland Islands Teal. Condor 92: 639–673

 

テネケス ヘンク/ 高橋健次訳 (1999) 鳥と飛行機どこがちがうか―飛行の科学入門 (日本語訳) 草思社 201pp