the kisuke3-5のブログ

主に鳥や恐竜について書いていきたいと思っています。まだ勉強中の身です。よろしくお願いします。

自力で飛んだ鳥以外の恐竜

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図1.デイノニクスの骨格。恐竜博2019のときに撮影

鳥類は翼を羽ばたかせて、自力で空を飛びます。これまでに見つかっている様々な恐竜の化石の研究から、風切羽など動力飛行に必要な形質は鳥が出現するより前から進化が始まっていましたが、、動力飛行(powered flight)ができたのは鳥類だけと考えられてきました。しかし、学術雑誌の「Current Biology」に今月掲載された論文のPei et al. (2020) によると、数はそれほど多くはないですが、動力飛行ができた可能性がある恐竜(鳥以外)がいたことが分かりました。今回、この研究ではどんな分析方法を行っているのかの説明と、この論文を読んだ私の個人的な感想を書きたいと思います。

 

どんな方法で分析したか?

 調査対象の恐竜

ここで研究対象となったのは以下の分類群の恐竜たちです。

 

・トロオドン科

・ドロマエオサウルス科

・アンキオルニス科

・鳥類

 

これらのグループを総称して「原鳥類Paraves」と呼ぶこともあります。トロオドン科、ドロマエオサウルス科、アンキオルニス科は他の恐竜の分類群よりも鳥類に系統的に近縁な分類群です。この分類群でとくに有名な恐竜はデイノニクスではないかと思います(図1)。デイノニクスは足の第二趾が非常に発達した鉤爪になっていました。また、前肢には始祖鳥と似ていた部分がありました。この恐竜の発表がきっかけで、「恐竜は恒温動物だった」「鳥は恐竜の子孫である」という説が支持を集めるようになったという歴史があります。ほかにも、ミクロラプトルのような現生鳥類にそれほど後れを取らないような翼を持っていたと思われる種もいます。

urvogel3-5.hatenablog.com

 

何をどう調べたか?

これらの恐竜が羽ばたき飛行ができたかを判断するため、各種の「翼面荷重(wing loading)」と「単位重量当たりの揚力(specific lift)」を算出しました。これらは現生鳥類の飛行の必要条件にもなっています。

翼面荷重とは翼に加わる単位面積当たりの重量です。この数値が2.5g/㎠を超えると飛べなくなると言われており、この研究では各種がこの数値を基準値としており、翼面荷重が2.5g/㎠未満であれば、基準値クリアとしています。

揚力は飛ぶときに必要な力で、重力とは逆向きに作用する力です。単位重量当たりの揚力の基準は重力(9.8N/kg)以上とされています。この数値を計算するには、筋肉量や筋肉1kgあたりが発生させることができる力など、化石からでは読み取れない情報が必要です。前者は推定値、後者は現生鳥類の情報を使って計算しています。

これら2つの項目を計算して、最大値と最小値が基準値をクリアできているか分析しました。計算式などの詳細は論文を参照ください。

 

数種の恐竜が羽ばたき飛行に適した結果となった

分析の結果は以下の通りでした。

・トロオドン科…基準値をクリアできた種はいなかった

・ドロマエオサウルス科…ラホナビスとミクロラプトルの2種が2つの基準値をクリア(ただしミクロラプトルの揚力は最大値の場合のみ)

・アンキオルニス科…翼面荷重の基準値は全員クリア。単位重量当たりの揚力値は、シャオティンギアはクリアできず、他は最大値であればクリア

・鳥類…翼面荷重は全員クリア。単位重量の揚力値は最大値であれば全員クリア。最小値であってもクリアできた種もいる。

 

以上のことから、鳥類以外にも、ドロマエオサウルス科やアンキオルニス科には、動力飛行ができた可能性がある種がいたことが分かりました。

 

アンキオルニスは動力飛行できたか?

この論文を読んでいて特に興味深く感じたことは、アンキオルニスがこの2つの項目で基準値をクリアしたという事でした。アンキオルニスには左右非対称の風切羽がありませんでした(この論文でも指摘されていました)。現生種で飛べる鳥たちは皆初列風切羽の形が左右非対称になっています。そのため、この2つの項目をクリアしていても実際には飛べなかった可能性があります。ただ、飛ぶためには本当に初列風切羽は左右非対称である必要はあるのかについては、現在でも議論が続いています(Dyke et al. 2013、Wang et al. 2017)。もしアンキオルニスが動力飛行できたとしたら、「飛べる鳥の初列風切羽は左右非対称」というこれまでの定説が覆るかもしれません。今後の進展を注視したいと思います。

 

最後に

今回、鳥が出現する以前から、動力飛行を行った恐竜がいた可能性があるという事を紹介しました。なお、この記事では羽ばたき飛翔に関する部分だけを紹介しましたが、Pei et al. (2020)はその他にも今回取り上げた分類群の系統樹の再構成なども行っています。興味がありましたら、是非ご覧になってください。

 

参考文献

Dyke G, Kat de R, Palmer C, Kindere der van J, Naish D & Ganapathisubramani B (2013) Aerodynamic performance of the feathered dinosaur Microraptor and the evolution of feathered flight. Nature Commun 4 2489 doi: 10.1038/ncomms3489; pmid: 24048346

 

Pei R, Pittman M, Goloboff A P, Dececchi A T, Habib B M, Kaye G T, Larsson E C H, Norell A M, Brusatte L S & Xu X (2020) Potential for Powered Flight Neared by Most Close Avialan Relatives, but Few Crossed Its Thresholds, Current Biology, https://doi.org/10.1016/j.cub.2020.06.105

 

Wang X, Nudds L R, Palmer C & Dyke J D (2017) Primary feather vane asymmetry should not be used to predict the flight capabilities of feathered fossils. Science Bulletin 62 : 1227-1228

 

New insights into the origin of birds (最終閲覧日:2020年8月10日)

http://www.bris.ac.uk/news/2014/february/origin-of-birds.html