the kisuke3-5のブログ

主に鳥や恐竜について書いていきたいと思っています。まだ勉強中の身です。よろしくお願いします。

飛ぶ以外にも胸筋は使われている! 潜水する鳥たちの形態の違いと、中生代の鳥類の生活様式の検証

鳥は羽ばたいて空を飛ぶとき、胸筋を使って翼を羽ばたかせます。飛べる鳥の体重に対する胸筋の量は平均で約20%もあります(テネケス 1999)。これほどの胸筋を蓄えられるのはそれだけ発達した胸骨があるからです。鳥の胸骨は「竜骨突起」と言い、その名の通り、船の竜骨のような形をしています。竜骨突起をもつ鳥は白亜紀(約1億4,500万年前から6,600万年前)に出現しました。詳しくはこちらをご覧ください。

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胸筋は飛ぶときだけでなく、潜水にも使う鳥もいます。今回、潜水をする鳥の形態的特徴と、これらの情報をもとに白亜紀にいた鳥の生活様式を分析した研究を紹介します。

 

羽ばたいて潜るのは羽ばたいて飛ぶより大変!?

ペンギン科の鳥は飛べない鳥ですが、体重に対する胸筋量の平均は約22%あり、飛べる鳥たちと同じかそれ以上に発達しています(綿貫 2010)。また、Zhao et al.(2017)では、19目45科137種の飛べる鳥たちの竜骨突起の長さと骨盤の長さを比較しています。その結果、鳥類は竜骨突起と骨盤の長さには正の相関があることが分かりました。そうした中でマダラウミスズメは、骨盤の大きさがほぼ同じ鳥たちと比べて竜骨突起が長いことが分かりました(図1)。ペンギンやマダラウミスズメは翼を使って潜水する鳥です。水中は大気中よりも抗力が大きく、羽ばたいて潜水するためにはより大きな力を発揮する必要があります。鳥の胸筋には大胸筋と烏口上筋(鶏肉のささみの部分)があり、飛翔時は翼を持ち上げるときは烏口上筋、打ち下ろすときは大胸筋を使います。しかし、羽ばたき潜水する鳥たちは潜水中打ち上げでも打ち下ろしでも烏口上筋を使います。そうした事から、これら羽ばたき潜水をする鳥たちは、竜骨突起と胸筋が非常に発達していると考えられています (綿貫 2010、Zhao et al. 2017) 。

 

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図1.骨盤の長さ(X軸)と竜骨突起の長さ(Y軸)の相関関係を示したグラフ。数値はそれぞれの長さ(mm)の3乗を体重(g)で割った数値を、Log10で変換したもの。データはZhao et. al(2017)より引用。

 

羽ばたき潜水をしない場合

すべての潜水する鳥がこのような特徴を持っているわけではありません。Zhao et al. (2017) では潜水する鳥はマダラウミスズメのほかにもアビとカワウも含まれています。アビは他の大多数の鳥とほぼ同じような傾向になり、カワウは比較的竜骨突起が短く、骨盤が長い結果となりました(図1)。アビとカワウは羽ばたきでなく、足こぎで潜水します。その場合は特別胸部が発達するわけではないようです。

 

中生代の鳥の潜水方法

Zhao et al. (2017) は、更に白亜紀に絶滅した鳥類10種の竜骨突起と骨盤の長さを比較しています。中でもPiscivorenantiornis inusitatus (以下、ピスキボレナンティオルニス) は、魚の骨が含まれたペリットの化石も発見されており、この事から、魚食性の鳥であったことが示唆されています (Wang et al. 2016) 。骨の長さを比較した結果、カワウに近い傾向を示しました 。この事はこのピスキボレナンティオルニスが足の力で推進する水鳥であったという説を証拠づける理由の1つとなりました。現生鳥類の竜骨突起の大きさと生活様式を調べると、中生代の鳥類の生活様式を検証できるかもしれません。

 

まとめ

今回、胸部は空を飛ぶだけでなく潜水にも使っている種もおり、そうした鳥はほかの鳥よりもこれらの形質が発達していること、一方で潜水方法が異なる鳥では同様の形質を持たないことを説明しました。水鳥が潜水するところを鳥類調査や野外観察で確認することは簡単にはできないと思うので、それが残念です…

 

 

参考文献

ギル B フランク (2009) 鳥類学(日本語) 新樹社 746pp

 

綿貫豊 (2010) 海鳥の行動と生態 -その海洋生活への適応- 生物研究社 317pp

 

Zhao T、Liu D & Li Z (2017) correlated evolution of sternal keel length and ileum length in birds. PeerJ 5 e3622 doi10.7717/peerj.3622

 

Wang M, Zhou Z, Sullivan C.(2016)A fish-eating enantiornithine bird from the early cretaceous of China provides evidence of modern avian digestive features. Current Biology 26:1170–1176 doi 10.1016/j.cub.2016.02.055.

 

Mayr (2017) Pectoral girdle morphology of Mesozoic birds and the evolution of the avian supracoracoideus muscle Journal of Ornithology volume 158: 859–867

 

フェドゥーシア A /黒沢玲子訳(2004) 鳥の起源と進化(日本語) 平凡社 631pp

 

テネケス ヘンク /高橋健次訳(1999) 鳥と飛行機どこがちがうか―飛行の科学入門 (日本語) 草思社201P

鳥類と哺乳類の呼吸器の違いと、鳥類の呼吸器の進化について

人は呼吸をするとき、空気を吸う時のみ酸素が肺に送られます。しかし鳥の場合は違います。今回、鳥たちはどのように呼吸しているのか、また、呼吸器がいつごろ進化したのかについてご説明したいと思います。

 

鳥の呼吸器はどうなっているのか?

鳥が吸った空気は肺に入ってそのあと吐き出されるまで一方通行になっており、吸った空気をすべて肺まで届けています(図1、Fastovsky & Weishampel 2015)。

更に鳥の体内には「気嚢(きのう)」という器官があります。これは吸った空気を入れておく袋で、体中にあります。グンカンドリ類の首にある赤い袋も気嚢です(ギル 2009)。骨の中にもあり、気嚢がある骨は「含気骨(がんきこつ)」と言う空洞がある形状をしています。鳥たちは空気を吸う時、肺だけでなく、気嚢にも酸素が入るようになっており、息を吐いたとき、気嚢にとどめておいた酸素が肺に行くようになっています。次に呼吸するとき前回の呼吸で吸った空気をすべて吐くようになっています(図1)。

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図1.鳥が呼吸しているときの、空気の流れを示した図。ギル(2009)を参考に作成。吸い込んだ空気は息を吐くまでに後気嚢と肺に入る(上)。次の呼吸で、肺から前気嚢へ移動し吐き出す(下)。最初の呼吸で吸った空気が流れている場所はで示している。

 

人間など哺乳類の場合は、吸った空気が必ずしもすべて肺に到達するわけではありません(Fastovsky & Weishampel 2015)。また、前の呼吸で吸い込んだ空気が肺に残ってしまうこともあります(ギル 2009)。この事から、常に新鮮な空気を供給するという点では哺乳類よりも鳥の方がずっと優れた呼吸器をもっていると言えます。尚、哺乳類と鳥類の呼吸の違いは他にもあります。哺乳類は横隔膜を使って肺を動かし呼吸をしますが、鳥には横隔膜がありません。息を吸う時は胸骨を下げて、肺と気嚢を広げ、吐くときは胸骨と肋骨を縮めて気嚢を収縮して吐き出しています(ギル 2009)。

 

鳥の呼吸器官は飛ぶときにも役立っている!?

鳥は飛んでいる時も呼吸をしています(テネケス 1999)。そして飛ぶのは非常に激しい運動です。そのため、より多くの酸素が必要と考えられます。そうした時、この呼吸器は大いに役立っているのではないかと推測されます。また、含気骨は空洞になっており、強度に対して相対的には軽くなっていることが示唆されています(ポルトマン 2003、Butler et al. 2012)。鳥が飛ぶためには、翼と胸筋だけでなく呼吸器も重要な役割を果たしているようです。

 

鳥の呼吸器はいつごろ獲得したのか?

鳥と同じ呼吸器官は、恐竜にもあったと考えられています。マジュンガトルスの化石から空洞がある骨も見つかっており、これは含気骨だったのではないかと考えられています(図2、O’Connor & Claessens)。また、翼竜にも含気骨はあったと考えられています(Butler et al. 2012)。ワニやトカゲには気嚢はありませんが、一方通行の呼吸器官があることが分かっています(図2、Farmer & Sanders 2009、Schachner et al. 2014、Cieri et al. 2014)。トカゲと、ワニや鳥では系統的に少し離れており、一方通行の呼吸器官はこれらの共通祖先の段階から持っていたのか、それとも双方で独自に進化したのか、まだはっきりとはわかっていません(Schachner et al. 2014)。以上のことから、鳥の呼吸器は少なくとも、一方通行の呼吸器官はワニとの共通祖先、気嚢はワニと分岐した後には獲得していたことが分かっています。

 

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図2.爬虫類と鳥類の分岐図の概略。一方通行の呼吸器官があるとわかっている分類群は、更に気嚢もある分類群は太字で示している。分岐図はFastovsky & Weishampel (2015) と平山(2007)を参考に作成。恐竜の中にはは気嚢がなかったと考えられている種もいる(Butler  et al.2012)。

 

まとめ

今回、鳥の呼吸器は人と違って、空気の通り道が一方通行になっていることと、気嚢という空気を入れておける袋が体中にあること、一方通行の呼吸器はワニとの共通祖先、気嚢はワニと分岐後にはあった事を説明しました。この記事では説明しきれなかったこともありますので、もし興味を持たれましたら、この記事を作成するのに参考にした文献をご覧になってみてください。

 

参考文献

Butler R J, Barrett P M & Gower D J (2012) Reassessment of the evidence for postcranial skeletal pneumaticity in Triassic archosaurs, and the early evolution of the avian respiratory system. PLoS One, 7, e34094.

 

Cieri L R, Craven A B, Schachner R E & Farmer G C (2014) New Insight Into the Evolution of the Vertebrate Respiratory System and the Discovery of Unidirectional Airflow in Iguana Lungs. Proc Natl Acad Sci U S A

. 2014 Dec 2;111(48):17218-23. doi: 10.1073/pnas.1405088111.

 

Farmer G C & Sanders K (2010) Unidirectional Airflow in the Lungs of Alligators. Science 327 5963 338-340

 

Fastovsky D E & Weishampel D B/真鍋真監修、藤原慎一、松本涼子訳 (2015) 恐竜学入門―かたち・生態・絶滅(日本語訳) 東京化学同人 396pp

 

ギル B フランク/山岸哲監修、山科鳥類研究所訳 (2009) 鳥類学(日本語訳) 新樹社 746pp

 

平山廉 (2007) カメのきた道 甲羅に秘められた2億年の生命進化 NHK出版 205pp

 

O’Connor M P & Claessens M A P L (2005) Nature 436 253–256.

 

ポルトマン アドルフ/ 長谷川博訳 (2003) 鳥の生命の不思議 (日本語訳) どうぶつ社 195pp

 

Schachner ER, Cieri RL, Butler JP, Farmer CG (2014) Unidirectional pulmonary airflow patterns in the savannah monitor lizard. Nature 506 367–370.

 

テネケス ヘンク /高橋健次(訳) (1999) 鳥と飛行機どこがちがうか―飛行の科学入門 (日本語訳) 草思社201P



 



 

 

鳥類の進化:竜骨突起を持った2つの分類群の共通点と相違点

鳥類は今から約1億5000万年前に、爬虫類(恐竜)から進化して、出現しました。鳥の最大の特徴と言えば空を飛べることではないかと思います(ペンギンなど例外もいますが)。飛べる鳥には大きな翼と左右非対称の初列風切羽、発達した胸筋があります。しかし初期の鳥である始祖鳥は大きな翼と初列風切羽はあったものの、胸筋が発達してなく、飛べたとしてもハトほどうまくは飛べなかったと考えられています(バードリサーチニュース2020年5月:3)。では、発達した胸筋を持った鳥はいつごろ出現したのでしょうか?

 

発達した胸筋を持った鳥は白亜紀に出現

鳥の胸部は筋肉だけでなく骨も非常に発達しています。胸骨には「竜骨突起」という部分があり、翼を羽ばたかせるために使われる筋肉が付着しています。竜骨突起を持った鳥は白亜紀(1億4000万年前~6600万年前)に出現しました。この鳥類群を「鳥胸類」と言います。この鳥胸類は真鳥形類とエナンティオルニス類の2つの分類群で構成されています(図1、Brusatte et al. 2015、Zhao et al. 2017 青塚 2018)。現生種はすべて真鳥形類に含まれています。尚、ダチョウなど竜骨突起がない種も一部います。しかしこれらは二次的に消失したのであって、これらの種も竜骨突起があった種から進化したと考えられています(Harshman et al. 2008)。今回、真鳥形類とエナンティオルニス類の形態的な共通点と相違点を紹介したいと思います。

 

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図1.鳥類の系統樹と進化の概略図。上の数値は年代(単位:億年)。Zhao et al. (2017) 、Brusatte et al.( 2015)、Fastovsky & Weishampel (2015) を参考に作成。

 

真鳥形類とエナンティオルニス類の共通点

真鳥形類とエナンティオルニス類には、竜骨突起がある事以外にも様々な共通の特徴があります。まず、この2つの分類群には、胸骨と肩甲骨、烏口骨の3つの骨から構成される「三骨間孔」がありました(図2)。これは翼を打ち上げるときに使う筋肉と上腕骨をつなぐ腱が通る孔です。そのため、翼を体より高い位置に持ち上げることができました(ギル 2009)。この三骨間孔と竜骨突起があったことから、それまでの鳥類と比べて高い飛翔能力を持っていました。また、手を構成する骨である、手根骨と中手骨の癒合も起きています(フェドゥーシア 2004)。更に、現生種は普段は翼を折りたたんでいますが、このようなことができるのは真鳥形類とエナンティオルニス類だけと考えられています(図1、ギル 2009、Fastovsky & Weishampel 2015)。

 

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図2.ハトの胸骨とその周辺の骨。Mayr (2017)のFig.1とFastovsky & Weishampel 2015の図 10・1を参考に描いた。 

 

真鳥形類とエナンティオルニス類の違い

エナンティオルニス類と真鳥形類には様々な共通点がある一方で、違いもいくつかありました。大きな違いとして言われているのは、烏口骨と肩甲骨の関節面です。真鳥類は烏口骨が凹んでいるのに対して、エナンティオルニス類は烏口骨が凸状になっていました(Walker 1981、Brusatte et al. 2015)。また、真鳥形類の腹肋骨がありませんが、エナンティオルニス類にはありました(Fastovsky & Weishampel 2015)。更に真鳥形類の方がエナンティオルニス類より、竜骨突起が大きい傾向にありました(Mayr 2017、Zhao et al. 2017)。この事から、真鳥形類の方が飛翔能力は高かったのかもしれません。

他にも現生種とエナンティオルニス類の違いに限ると、歯の有無があります。しかし、真鳥形類の中にも歯をもつ種はいました。歯の消失は現生種の分類群で起きた進化と考えられています(図1、Fastovsky & Weishampel 2015)。

 

最後に

今回、発達した胸筋を持った白亜紀の鳥、真鳥形類とエナンティオルニス類の形態的な共通点と相違点を紹介しました。エナンティオルニス類は白亜紀の終わりに絶滅しました。この時、隕石の衝突によって起きたと考えられている地球規模の大量絶滅が起き、恐竜やアンモナイトなども絶滅しています。しかしエナンティオルニス類は白亜紀で最も繁栄し多様化した鳥類だったと考えられています(Brusatte et al. 2015)。もし隕石が衝突していなければ、今生きている鳥たちは今ほど繁栄できていなかったかもしれません。

鳥の体には他にも、体の各部に癒合した骨や大腿骨を前に突き出した姿勢など様々な特徴があります。このような進化がいつ起きたのか、今後このブログで説明できたらと思っています。

今後とも宜しくお願い致します。

 

参考文献

青塚圭一 (2018) 中生代の鳥類における骨格及び生態の進化 日本鳥学会誌 67 1 : 41–55

 

Brusatte S L O’Connor J K & Jarvis E D (2015) The origin and diversification of birds. Curr. Biol. 25, 888–898.

 

Fastovsky D E & Weishampel D B/真鍋真監修、藤原慎一、松本涼子訳 (2015) 恐竜学入門―かたち・生態・絶滅(日本語訳) 東京化学同人 396pp

 

フェドゥーシア A/黒沢玲子訳 (2004) 鳥の起源と進化(日本語訳) 平凡社 631pp

 

ギル B フランク/山岸哲監修、山科鳥類研究所訳 (2009) 鳥類学(日本語訳) 新樹社 746pp

 

Harshman J, Braun E L, Braun MJ, Huddleston CJ, Bowie R C K, Chojnowski J L, Hackett S J, Han K L, Kimball R T, Marks B D, Miglia K J, Moore W S, Reddy S, Sheldon F. H, Steadman D W, Steppan S J , Witt C C, Yuri T  (2008) Phylogenomic evidence for multiple losses of flight in ratite birds. Proceedings of the National Academy of Sciences. 105 13462–13467

 

Mayr (2017) Pectoral girdle morphology of Mesozoic birds and the evolution of the avian supracoracoideus muscle Journal of Ornithology volume 158: 859–867

 

Walker A C (1981) New subclass of birds from the Cretaceous of South America. Nature Vol. 292 51–53

 

Zhao T、Liu D & Li Z (2017) correlated evolution of sternal keel length and ileum length in birds. PeerJ 5 e3622 doi10.7717/peerj.3622

 

始祖鳥は飛べたのか? 現生鳥類を参考にした始祖鳥の研究(最終閲覧日:2020年7月2日)

https://db3.bird-research.jp/news/202005-no3/