主竜類について
図1.両生類、哺乳類、爬虫類の系統樹の概略図。}は主竜類、}は双弓類、}は単弓類。
爬虫類にはトカゲ、ヘビ、カメ、ワニがいます。そして鳥類は爬虫類から進化しました。実はワニにとっては他の爬虫類よりも鳥類の方が系統的に近縁です(図1)。ワニと鳥類は「主竜類(しゅりゅうるい 学名: Archosauria)」というグループの一員となっています。今回、主竜類にはどんな特徴があるのかについて書いていきたいと思います。
主竜類が出現するまで
生物は最初、海で出現しました。最初の脊椎動物は魚類で、その次に四肢で運動する両生類が出現します。更にその後、乾燥した環境でも生活できる「単弓類(たんきゅうるい)」と「双弓類(そうきゅうるい)」という2つのグループが出現します。この2つの違いは、側面頭窓(そくめんとうそう 英:temporal fenestra)の数です(Fastovsky & Weishampel 2015)。側面頭窓とは眼の後ろにある孔のことを言います(図2)。単孔類は1つ、双弓類は2つあります(図2)。そして双弓類でも分岐が起こり、有鱗類(トカゲやヘビなど)とカメ類、そして主竜類が出現しました。これはペルム紀という約2億5千万年前~3億年以上前の話です。
図2.単弓類のイノストランケビア(左)と双弓類のベロキラプトル(右)。側面頭窓の位置を○で囲っている。
主竜類の特徴
主竜類の特徴には、前眼窩窓(ぜんがんかそう、英:antorbital fenestra)や大腿骨に「第4転子」という突起のようなものなどがあります(ナイシュ&バレット 2019)。前眼窩窓とは眼の前方にある孔です(図3左)。その内部は空気が入る袋が収まっており、頭の軽量化や温度の制御の役割を担っています。第4転子には歩行などで大腿骨を後ろに引くために使う筋肉が付着しています(図3右)。
図3.ティラノサウルスの前眼窩窓(左)と第4転子(右)
現生の鳥類とワニは主竜類の特徴を失っている?
しかし、現生鳥類には第4転子はありません(Rashid et al. 2014)。前眼窩窓もほぼ眼窩と合体しています(Knutsen 2007)。一方、ワニは前眼窩窓を喪失しています(Rayfield et al. 2007)。そうした事から、現生の鳥類とワニにのみ共通する特徴はほぼないかもしれません。
呼吸器官は主竜類のとなるか?
以前このブログでも紹介しましたが、鳥類とワニの呼吸器官は一方通行の構造となっています。以前は、これは鳥特有のものと考えられていましたが、近年になってワニも同様の呼吸器官を有していることが分かりました。
一部のトカゲもこのような呼吸器官があることが分かっています。しかしほかの双弓類で呼吸器官が一方通行になっているという報告はまだ聞いていません。一部のトカゲだけが独自に進化したという事であれば、この呼吸器官は現生の主竜類まで受け継がれている大きな特徴になります。今後、呼吸方法に関する研究の動向を注視したいと思います。
まとめ
今回の内容をまとめると以下のようになります。
- 鳥類とワニは主竜類というグループに含まれている
- 主竜類には「前眼窩窓」と「第4転子」という特徴がある
- しかし現生の鳥類は第4転子を、ワニは前眼窩窓を喪失しており、鳥類とワニにのみ共通する特徴はほぼないかもしれない
- 呼吸器官が現生の鳥類とワニまで受け継がれてきている主竜類の特徴になるかもしれない
尚、ワニの祖先と鳥類の祖先は約2億4700万年前に分岐したと考えられています。鳥類の祖先はこの後、二足歩行に適した形態や羽毛などを獲得していく事となります。
参考文献
Fastovsky D E & Weishampel D B/真鍋真監修、藤原慎一、松本涼子訳 (2015) 恐竜学入門―かたち・生態・絶滅(日本語訳) 東京化学同人 396pp
Knutsen E M (2007) Beak morphology in extant birds with implications on beak morphology in ornithomimids. Masters thesis University of Oslo Oslo Norway, 44 pp
ナイシュ ダレン & バレット ポール/小林 快次、久保田克博、千葉謙太郎訳(2019) 恐竜の教科書: 最新研究で読み解く進化の謎 創元社 240pp
Rayfield J E、Milner C A、Xuan B V & Young G P(2007) FUNCTIONAL MORPHOLOGY OF SPINOSAUR ‘CROCODILE-MIMIC’ DINOSAURS. Journal of Vertebrate Paleontology 27(4):892–901