鳥の姿勢とその進化について
鳥は人間と同様二足歩行で地上を移動します。しかし、立っているときの姿勢は違います。鳥の足を見ると「くの字」になっており(図1左)、一見、膝が逆方向に曲がっているように見えますが、この曲がっている部分は踵です。なので私たちが普段見ている野鳥の脚は膝より下の部分という事になります。では、太ももはどうなっているのでしょうか?ハシボソガラスの骨格を見ると、大腿骨が骨盤からまっすぐ前へ向かっています(図1右)。これらのことから、鳥はしゃがんだ姿勢で立っていることが分かります。しかしなぜこのような姿勢なのでしょうか。また、鳥たちの祖先である恐竜の姿勢はどうだったのでしょうか?今回これらについて説明したいと思います。
鳥の重心は前方ある
ハシボソガラスの骨格の写真を見てみると足より右側と左側では明らかに右側の方が大きな骨で形成されています。鳥たちは飛ぶために発達した翼と胸筋が必要です。そのため、これらを形成するための骨も大きくなります。更に鳥の内臓もほとんどが胸骨に収まっています(ポルトマン2003)。このような体型だと重心も右側の方になります。もし脚がまっすぐ地面に向かう姿勢では簡単バランスを崩してしまいそうです。大腿骨は骨盤から前へ伸ばすことで体を支えることができています。(ポルトマン2003)。そのため、しゃがんだ姿勢になってしまうのです。
因みにですが、鳥は歩行中、太ももも動かしているようです。Heers et al. (2016) で、イワシャコを傾斜を走らせた動画を見ることができますが、太ももが動いていました。
恐竜はどうだったか?
このような姿勢になる進化は恐竜の段階で始まっていたと考えられています。Allen et al. (2013) では主竜類16種の骨格をもとに3次元モデルを作り重心位置を分析しました。その結果、ミクロラプトルなど鳥に非常に近縁な種は、重心位置が前方にあった事が分かりました。この事から、エウマニラプトル類(鳥類やミクロラプトルが含まれる分類群)でこのような姿勢の進化が起きたと考えられています。エウマニラプトル類の恐竜たちは相対的に腕が長く、これによって重心位置が変化したのではないかと考察されています。
図3.Allen et al. (2013) の調査対象種の一部を系統樹にプロットした図。重心位置が現生鳥類に近いグループを赤い丸で囲っている。
まとめ
今回、鳥の立っている姿勢は人とは異なり、しゃがんだ姿勢をしているという事と、このような姿勢になる進化はマニラプトル類の段階で始まった可能性があるという事を紹介しました。人の感覚で考えると、この姿勢は非常に立ちづらそうな感じがしますが、地上を歩き回り、空を飛び回る体を維持するためには必要な変化であったと思われます。また、鳥は人間とは比べ物にならないくらい長い歴史を持っています。むしろ鳥の体は人間の体よりも二足歩行に適応した形態になっているのかもしれません。
参考文献
Allen V, Bates T K, Li Z & Hutchinson R J (2013) Linking the evolution of body shape and locomotor biomechanics in bird-line archosaurs. Nature Vol. 497 104–107
Heers M A, Baier B D , Jackson E B & Dial P K (2016) Flapping before Flight: High Resolution, Three-Dimensional Skeletal Kinematics of Wings and Legs during Avian Development. PLos ONE 11 e0153446