the kisuke3-5のブログ

主に鳥や恐竜について書いていきたいと思っています。まだ勉強中の身です。よろしくお願いします。

恐竜は換羽をしていた!? 換羽パターンから恐竜の行動を分析

恐竜にも羽毛があったことが、化石記録から明らかになってきています。中には風切羽を持ち飛ぶことができたと考えられている種もいます。更に、今月、学術雑誌の「Current Biology」に掲載された論文のKiat et al.(2020)では、換羽も行っていたのではないかと報告されています。換羽とは、その名の通り羽が生え換わることです。羽はずっと使い続けていると、摩耗や紫外線による曝露などで劣化します。飛翔能力や保温など羽や羽毛の機能を維持し続けるため鳥たちは一生の間に何度も羽を生え換える必要があります。そして、このような事を恐竜たちも行っていたようです。今回、この論文紹介を中心に換羽していたと言われている恐竜がどんな恐竜であったかを説明したいと思います。

 

換羽をしていたと考えられている恐竜 ミクロラプトル

この論文で取り上げられていた恐竜は「ミクロラプトル」という恐竜です。ミクロラプトルはその名の通り、恐竜としては小さい部類で、全長は約77㎝でした(Xu et al. 2003)。この恐竜には四肢に翼があり、これらを使って、木から木へと滑空することができていたと考えられています(Dyke et al. 2013)。

この恐竜の右腕の羽が生えている部分で、羽と羽の間に隙間があります(図1)。Kiat et al.(2020)では、この部分は換羽中だったのではないかと説明されています。図1の隙間になっているところの左の方を見ると短い羽の痕跡が見られます。この羽の先端部分は、ほかの長い羽と形が似ており、この事から、この短い羽は生え換わろうとしている新しい羽ではないかと説明されています。また、この隙間には数枚羽があり、内側に行くほど長くなっていました。もしこれが換羽だったとするなら、ミクロラプトルは徐々に羽を生え換える方法で換羽をしていたのかもしれません。

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図1.ミクロラプトルの化石標本。換羽の途中と考えられているところはで示している。

 

換羽パターンと飛翔能力の関係

また、Kiat et al.(2020)では、飛べない鳥51種(古顎類やペンギン目)、換羽期間中は飛べなくなる鳥61種(カモ目やツル目の一部など)、換羽期間中でも飛べる鳥190種(ハト目やスズメ目など)の換羽パターンを収集しています。換羽パターンは以下の3つに分けています。

①徐々に羽が生え換わるパターン

②1度に羽を抜いてしまうパターン

③換羽の順番や規則性を持たないパターン

その結果、③のパターンを持つのは、飛べない鳥だけで、②のパターンを持つのは、飛べない鳥と換羽期間中は飛べなくなる鳥に見られました。そして換羽期間中であっても飛べる鳥たちのほぼすべてが①でした。

このような結果になったことについて、Kiat et al.(2020)は次のように考察 しています。①のパターンになった鳥たちは常に捕食者から飛んで逃げる必要があります。また、採餌でもこのパターンの鳥の中には飛びながら獲物を捕まえている種もいます。なので、換羽期間中であっても飛翔能力は維持し続ける必要があります。一方、②③の鳥たちは潜水をするなど、飛ぶ以外にも逃げるすべを持っている種や、沼地や草原のように植生が密になっている環境や捕食者がいない島に生息している種などが多くいます。採餌方法も飛びながら行う種はほぼいません。そうしたことから、通年飛び続ける必要がある鳥たちは①のパターン、一時的に飛べなくなっても捕食から逃げる方法や採餌方法を持つ鳥たちは②のパターンになるのではないかと考えられます。

しかし、いくら飛ぶ以外にも逃げる方法や採餌方法を持っているとはいえ、飛翔能力を維持できるなら、そうしておいたほうがいいように思えます。②のパターンがあるのは、これらの種は翼が短く、少しでも羽がなくなると飛翔能力を失ってしまい、①のパターンでは飛翔能力を喪失する時間が長くなるため、一度に羽を換えてしまい飛べない期間を短縮させているのではないかという説や、この方法で換羽する鳥たちは換羽によるエネルギー量が非常に大きいので、飛べなくなることで、飛翔に使っていたエネルギーを換羽に回している のではないかといった説などがあります(Guillemette et al. 2007)。飛べなくなるのにはこのようなやむを得ない事情があるのかもしれません。

 

ミクロラプトルは換羽期間中であっても飛び続ける恐竜だった!?

そして、Kiat et al.(2020)ではミクロラプトルの行動についても言及しています。ミクロラプトルの換羽パターンは①に似ており、換羽期間中であっても飛び続けていた恐竜だったのではないかと説明されています。

ミクロラプトルがいたころは、様々な肉食恐竜が地上に君臨しており、中には全長10m近くある種もいました。このような捕食者から身を守る必要があります。また、別の研究ではミクロラプトルは鳥や魚を捕食していたことが分かっています(O’Connor et al. 2011、Xing et al. 2013)。現生の猛禽類のように飛びながら獲物を捕まえていたのかもしれません。これらのことを考えると、換羽期間中であっても樹上を滑空し続ける能力が必要だった可能性は十分あり得るように思えます。

但し、①のパターンは両翼で同じように換羽がされます。この化石標本は左翼の羽の部分が欠損しているため、左翼がどのようになっていたのか分かりません。もし左翼で換羽がされていなければ、③のパターンという事になります。

 

まとめ

ミクロラプトルは、その化石標本から換羽をしていたと考えられ、この事から恐竜の段階から換羽が行われていたことが示唆されるという事と、ミクロラプトルの換羽パターンは、現生の換羽期間中でも飛べる鳥と同じパターンであることから、ミクロラプトルも換羽期間中でも飛ぶことができ、また、飛んで捕食者から逃げたり、獲物を捕獲していた恐竜であった可能性が高い事を説明しました。恐竜や絶滅した鳥類の飛翔能力を研究するとき、多くの場合が羽の形や翼や胸骨の大きさなどが取り上げられていますが、「換羽」という視点で検証するのはとても面白いと思いました。ミクロラプトルの換羽パターンは、今回の研究で①と決まったわけではありません。しかし、内側へ行くほど羽が長くなるという傾向や、これまでの先行研究から、滑空ができたことが示唆されていることから(Dyke et al. 2013)、①か③なら、①だったのではないかと思っています。いずれにせよ、恐竜の換羽パターンに関する研究は始まったばかりです。今後どのようなことが明らかになってくるのかとても楽しみです。

 

 

参考文献

Dyke G, Kat de R, Palmer C, Kindere der van J, Naish D & Ganapathisubramani B (2013) Aerodynamic performance of the feathered dinosaur Microraptor and the evolution of feathered flight. Nature Commun 4 2489 doi: 10.1038/ncomms3489; pmid: 24048346

 

Guillemette M, Pelletier D, Grandbois M J & Butler J P (2007) Flightlessness and the energetic cost of wing molt in a large sea duck. Ecology, 88 11 2936–2945

 

Kiat Y, Balaban A, Sapir N, O’Connor K J, Wang M & Xu X (2020) Sequential Molt in a Feathered Dinosaur and Implications for Early Paravian Ecology and Locomotion. Current Biology doi :https://doi.org/10.1016/j.cub.2020.06.046

 

O’Connor J, Zhou Z & Xu X (2011) Additional specimen of Microraptor provides unique evidence of dinosaurs preying on birds. PNAS Vol.108 19662-19665

 

Xing L , Persons IV S W , Bell R P , Xu X , Zhang J , Miyashita T , Wang F & Currie J P (2013) Piscivory in the feathered dinosaur. Microraptor. Evolution. 67, 2441–2445

 

Xu X, Zhou Z, Wang X, Kuang X, Zhang F & Du X. (2003) Four-winged dinosaurs from China. Nature 421 6921 : 335–340