the kisuke3-5のブログ

主に鳥や恐竜について書いていきたいと思っています。まだ勉強中の身です。よろしくお願いします。

獣脚類、マニラプトル類、エウマニラプトル類、鳥群  恐竜の中での鳥類の位置について

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図1.主竜類における鳥類の位置を示した分岐図。鳥群の個所のみPei et al. (2020)を、他はAllen et al. (2013)を参考に作成。()で書いたものはそのグループの主な特徴

 鳥類は恐竜であるという事は定説となっています。では鳥類は恐竜のどのようなグループに含まれるのでしょうか。今回、鳥類を含む恐竜たちのグループの主な特徴について書いていきたいと思います。尚、本来、鳥以外の恐竜を「非鳥類型恐竜(Non-avian dinosaur)」と呼びますが、この記事では、これらを「恐竜」と呼ぶこととします。

 

鳥類は肉食恐竜の仲間

 鳥類は恐竜の中でも「獣脚類(じゅうきゃくるい 英:theropod)」というグループに含まれます。獣脚類を簡単に説明すると「肉食恐竜」のことです(一部例外もいます。)。ティラノサウルスアロサウルス、スピノサウルスなどもこの獣脚類に含まれます。獣脚類には鳥の大きな特徴の1つである「叉骨」がありました(Nesbitt et al. 2009、図2)。この獣脚類はいくつかのグループで構成されており、さらにそのグループもいくつかのグループによって構成されています。鳥類はこれらの中でマニラプトル類(Maniraptora)というグループに含まれています。

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図2.ティラノサウルスの骨格。叉骨の位置は赤い○で囲んでいる。

 

マニラプトル類とは

マニラプトルのマニ(Mani)は「手」という意味で、このグループの大きな特徴は手首の形にあります。手首にある骨は「手根骨」という骨で構成されています。マニラプトル類の手根骨は半円のような形をしており、腕の骨と接する部分の方が弧を描いています。このような形になることで、手を外側へ大きく曲げることができたと考えられています(Fastovsky & Weishampel 2015)。現生鳥類は手根骨と中手骨(手の骨)と癒合していますが、初期の鳥である始祖鳥にはこの特徴がまだ残っています(図3)。

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図3.始祖鳥の手根骨(で囲っている場所)

また、マニラプトル類の中にはほかの獣脚類とは骨盤の形が少し異なる種もいます。骨盤を形成する骨に「恥骨」と「坐骨」という骨があります。人間も同様です。獣脚類の場合、この2つの骨は「ハ」のような形を形成しています(図4左)。しかし、マニラプトル類の場合は恥骨がやや坐骨によるような形をしています(図4右)。現生種では癒合してしまっていますが、絶滅した鳥類の中にもこの特徴を持った種もいました(Fastovsky & Weishampel 2015)。

マニラプトル類もまた数多くのグループによって構成されています。鳥類はこの中で「エウマニラプトル類」というグループに含まれています。

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図4.ティラノサウルス恥骨(赤)坐骨(青)はハの形を形成しているのに対し、マニラプトル類のデイノニクスの恥骨(赤)はやや坐骨(青)によっている。

 

エウマニラプトル類とは

エウマニラプトル類の特徴は、脛を構成する骨の1つである「腓骨(ひこつ)」が縮小していることです(Fastovsky & Weishampel 2015)。また、エウマニラプトル類では相対的に腕が長くなりました。これによって姿勢も変化し、現生鳥類の独特な姿勢に近い形になっていたと考えられています。また、この段階ではすでに腕には風切羽があり、翼になっていました。自力で飛ぶことができた種もいたのではないかと考えられています。

エウマニラプトル類は大きく2つのグループに分けられます。1つはデイノニコサウルス類、そしてもう1つが鳥群(Avialae)です。鳥類は鳥群に含まれています。

 

鳥群とは

名前が似ていますが、鳥群=鳥類ではありません。鳥群にも恐竜がいます(Pei et al. 2020)。現生鳥類や白亜紀に出現した鳥類と、これらの恐竜では形態的な違いがいくつか見受けられます(例えば竜骨突起の有無など)。しかし、初期の鳥類とされている始祖鳥の違いはもはやほとんどありません。始祖鳥は現生鳥類よりも鳥群の恐竜の方が系統的に近いのではないかという意見もあります(Godefroit et al. 2013)。始祖鳥を初期の鳥とした場合、どこから鳥類とするのかはっきりとすることができなくなっているかもしれません。

 

まとめ

今回、鳥類が恐竜の分類の中でどんな位置にいるのかを説明してきました。初期の恐竜と鳥類とでは相違点も少なくはなかったと思います。しかし、徐々に鳥類と同じ特徴を持った恐竜が出現し、最も近縁な種ではもはや初期の鳥類との違いが分からなくなるまでに至っています。鳥は突然進化したのではなく、長い時間をかけて特徴的な形質を獲得したのだと、このブログを書いていて改めて感じました。

 

参考文献

Allen V, Bates T K, Li Z & Hutchinson R J (2013) Linking the evolution of body shape and locomotor biomechanics in bird-line archosaurs. Nature Vol. 497 104–107

 

Fastovsky D E & Weishampel D B/真鍋真監修、藤原慎一、松本涼子訳 (2015) 恐竜学入門―かたち・生態・絶滅(日本語訳) 東京化学同人 396pp

 

Godefroit P, Cau A, Dong-Yu H, Escuillie´ F, Wenhao W & Dyke G (2013) A Jurassic avialan dinosaur from China resolves the early phylogenetic history of birds. Nature 498(7454)

 

Nesbitt SJ, Turner AH, Spaulding M, Conrad JL & Norell MA (2009) The theropod furcula. J Morphol 270:856–879.

 

Pei R, Pittman M, Goloboff A P, Dececchi A T, Habib B M, Kaye G T, Larsson E C H, Norell A M, Brusatte L S & Xu X (2020) Potential for Powered Flight Neared by Most Close Avialan Relatives, but Few Crossed Its Thresholds, Current Biology, https://doi.org/10.1016/j.cub.2020.06.105

 

 

 

主竜類について

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図1.両生類、哺乳類、爬虫類の系統樹の概略図。は主竜類、は双弓類、は単弓類。

 

爬虫類にはトカゲ、ヘビ、カメ、ワニがいます。そして鳥類は爬虫類から進化しました。実はワニにとっては他の爬虫類よりも鳥類の方が系統的に近縁です(図1)。ワニと鳥類は「主竜類(しゅりゅうるい 学名: Archosauria)」というグループの一員となっています。今回、主竜類にはどんな特徴があるのかについて書いていきたいと思います。

 

主竜類が出現するまで

生物は最初、海で出現しました。最初の脊椎動物は魚類で、その次に四肢で運動する両生類が出現します。更にその後、乾燥した環境でも生活できる「単弓類(たんきゅうるい)」と「双弓類(そうきゅうるい)」という2つのグループが出現します。この2つの違いは、側面頭窓(そくめんとうそう 英:temporal fenestra)の数です(Fastovsky & Weishampel 2015)。側面頭窓とは眼の後ろにある孔のことを言います(図2)。単孔類は1つ、双弓類は2つあります(図2)。そして双弓類でも分岐が起こり、有鱗類(トカゲやヘビなど)とカメ類、そして主竜類が出現しました。これはペルム紀という約2億5千万年前~3億年以上前の話です。

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図2.単弓類のイノストランケビア(左)と双弓類のベロキラプトル(右)。側面頭窓の位置を○で囲っている。

 

主竜類の特徴

主竜類の特徴には、前眼窩窓(ぜんがんかそう、英:antorbital fenestra)や大腿骨に「第4転子」という突起のようなものなどがあります(ナイシュ&バレット 2019)。前眼窩窓とは眼の前方にある孔です(図3左)。その内部は空気が入る袋が収まっており、頭の軽量化や温度の制御の役割を担っています。第4転子には歩行などで大腿骨を後ろに引くために使う筋肉が付着しています(図3右)。

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図3.ティラノサウルスの前眼窩窓(左)と第4転子(右)

 

現生の鳥類とワニは主竜類の特徴を失っている?

しかし、現生鳥類には第4転子はありません(Rashid et al. 2014)。前眼窩窓もほぼ眼窩と合体しています(Knutsen 2007)。一方、ワニは前眼窩窓を喪失しています(Rayfield et al. 2007)。そうした事から、現生の鳥類とワニにのみ共通する特徴はほぼないかもしれません。

 

呼吸器官は主竜類のとなるか?

以前このブログでも紹介しましたが、鳥類とワニの呼吸器官は一方通行の構造となっています。以前は、これは鳥特有のものと考えられていましたが、近年になってワニも同様の呼吸器官を有していることが分かりました。

一部のトカゲもこのような呼吸器官があることが分かっています。しかしほかの双弓類で呼吸器官が一方通行になっているという報告はまだ聞いていません。一部のトカゲだけが独自に進化したという事であれば、この呼吸器官は現生の主竜類まで受け継がれている大きな特徴になります。今後、呼吸方法に関する研究の動向を注視したいと思います。

呼吸器官の説明について詳しくはこちらをご参照ください。

urvogel3-5.hatenablog.com

 

 

まとめ

今回の内容をまとめると以下のようになります。

  • 鳥類とワニは主竜類というグループに含まれている
  • 主竜類には「前眼窩窓」と「第4転子」という特徴がある
  • しかし現生の鳥類は第4転子を、ワニは前眼窩窓を喪失しており、鳥類とワニにのみ共通する特徴はほぼないかもしれない
  • 呼吸器官が現生の鳥類とワニまで受け継がれてきている主竜類の特徴になるかもしれない

尚、ワニの祖先と鳥類の祖先は約2億4700万年前に分岐したと考えられています。鳥類の祖先はこの後、二足歩行に適した形態や羽毛などを獲得していく事となります。

 

参考文献

Fastovsky D E & Weishampel D B/真鍋真監修、藤原慎一、松本涼子訳 (2015) 恐竜学入門―かたち・生態・絶滅(日本語訳) 東京化学同人 396pp

 

Knutsen E M (2007) Beak morphology in extant birds with implications on beak morphology in ornithomimids. Masters thesis University of Oslo Oslo Norway, 44 pp

 

ナイシュ ダレン & バレット ポール/小林 快次、久保田克博、千葉謙太郎訳(2019) 恐竜の教科書: 最新研究で読み解く進化の謎 創元社 240pp

 

Rayfield J E、Milner C A、Xuan B V & Young G P(2007) FUNCTIONAL MORPHOLOGY OF SPINOSAUR ‘CROCODILE-MIMIC’ DINOSAURS. Journal of Vertebrate Paleontology 27(4):892–901

飛べない鳥の翼の羽について

飛べる鳥の翼の羽は羽軸・羽枝・小羽枝によって構成されています。羽軸の両端に羽枝が付着し、さらに1本1本の羽枝の両端に小羽枝が付着しています。小羽枝には鉤状の構造を持つ「有鉤小羽枝」と弓状の「弓状小羽枝」があります。これらの小羽枝群が重なり合うことで、「羽板」を形成しています(ポルトマン 2003)。

これらの形状は、キャノングローバルさんのHPに図が載っています。

 

 

一方、飛べない鳥の場合は種によって羽の形は違っているようです。現生鳥類で飛べない鳥には平胸類(ダチョウ科、レア科、ヒクイドリ科、エミュー科、キーウィ科)とペンギン科、ウ科、クイナ科、カモ科、カイツブリ科、インコ科の鳥がいます。そのうち平胸類とペンギン科はすべて飛べない鳥で、ほかの分類群には飛べる鳥もいます。これらの鳥たちの翼の羽はどのようになっているのでしょうか。今回これについて少し書きたいと思います。

 

飛べない鳥たちの初列風切羽は?

平胸類の翼の羽には弓状小羽枝がありません(McGowa 1989、図1)。

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図1.ダチョウの翼の羽。右は小羽枝。腕のどの部分に付着していた羽なのかははっきりとはわからないが、ダチョウの翼の羽はすべて羽板を形成できていない。

 

次にペンギン科です。実はペンギン科の翼の羽には飛べる鳥と同様羽軸、羽枝、有鉤小羽枝、弓状小羽枝があります(McGowa 1989 fig.3)。ただ、飛べる鳥のような羽板は形成できていなさそうです。ペンギンは飛びませんが、水中を泳ぐときに翼を使います。そうしたときに羽板が必要なのかもしれません。

最後のほかの鳥たちの翼の羽ですが、これらの鳥たちの多くは飛べる鳥たちと非常によく似ています。 初列風切羽も左右非対称の形をしている種も複数いるようです(McGowa 1989、Wang et al. 2017、ヤンバルクイナの翼)。

 

 

飛べない鳥同士でなぜ羽の形が違うのか?

今回、飛べない鳥たちの翼の羽の形について紹介してきました。それぞれの種がなぜこのような形状になっているのかはっきりとした理由は分かりません。ただ、飛翔能力を喪失して1番時間が経っているのは平胸類です。飛翔能力を喪失してからの時間が経つと、翼の羽は飛翔により適さない構造になっていくのかもしれません。

 

参考文献

McGowan C (1989) Feather structure in flightless birds and its bearing on the question of the origin of feathers. Journal of Zoology 218: 537 - 547

 

ポルトマン アドルフ/ 長谷川博訳 (2003) 鳥の生命の不思議 (日本語訳) どうぶつ社 195pp

 

Wang X, Nudds L R, Palmer C & Dyke J D (2017) Primary feather vane asymmetry should not be used to predict the flight capabilities of feathered fossils. Science Bulletin 62 : 1227-1228

 

鳥の羽根をさがしてみよう 自由研究にもおすすめ!いろいろな羽根のヒミツ(最終閲覧日:2020年8月10日)

https://global.canon/ja/environment/bird-branch/bird-column/kids1/index.html

 

山階鳥類研究所 標本データベース(最終閲覧日:2020年8月10日)

https://decochan.net/index.php?p=2&o=ssp&id=68610)

自力で飛んだ鳥以外の恐竜

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図1.デイノニクスの骨格。恐竜博2019のときに撮影

鳥類は翼を羽ばたかせて、自力で空を飛びます。これまでに見つかっている様々な恐竜の化石の研究から、風切羽など動力飛行に必要な形質は鳥が出現するより前から進化が始まっていましたが、、動力飛行(powered flight)ができたのは鳥類だけと考えられてきました。しかし、学術雑誌の「Current Biology」に今月掲載された論文のPei et al. (2020) によると、数はそれほど多くはないですが、動力飛行ができた可能性がある恐竜(鳥以外)がいたことが分かりました。今回、この研究ではどんな分析方法を行っているのかの説明と、この論文を読んだ私の個人的な感想を書きたいと思います。

 

どんな方法で分析したか?

 調査対象の恐竜

ここで研究対象となったのは以下の分類群の恐竜たちです。

 

・トロオドン科

・ドロマエオサウルス科

・アンキオルニス科

・鳥類

 

これらのグループを総称して「原鳥類Paraves」と呼ぶこともあります。トロオドン科、ドロマエオサウルス科、アンキオルニス科は他の恐竜の分類群よりも鳥類に系統的に近縁な分類群です。この分類群でとくに有名な恐竜はデイノニクスではないかと思います(図1)。デイノニクスは足の第二趾が非常に発達した鉤爪になっていました。また、前肢には始祖鳥と似ていた部分がありました。この恐竜の発表がきっかけで、「恐竜は恒温動物だった」「鳥は恐竜の子孫である」という説が支持を集めるようになったという歴史があります。ほかにも、ミクロラプトルのような現生鳥類にそれほど後れを取らないような翼を持っていたと思われる種もいます。

urvogel3-5.hatenablog.com

 

何をどう調べたか?

これらの恐竜が羽ばたき飛行ができたかを判断するため、各種の「翼面荷重(wing loading)」と「単位重量当たりの揚力(specific lift)」を算出しました。これらは現生鳥類の飛行の必要条件にもなっています。

翼面荷重とは翼に加わる単位面積当たりの重量です。この数値が2.5g/㎠を超えると飛べなくなると言われており、この研究では各種がこの数値を基準値としており、翼面荷重が2.5g/㎠未満であれば、基準値クリアとしています。

揚力は飛ぶときに必要な力で、重力とは逆向きに作用する力です。単位重量当たりの揚力の基準は重力(9.8N/kg)以上とされています。この数値を計算するには、筋肉量や筋肉1kgあたりが発生させることができる力など、化石からでは読み取れない情報が必要です。前者は推定値、後者は現生鳥類の情報を使って計算しています。

これら2つの項目を計算して、最大値と最小値が基準値をクリアできているか分析しました。計算式などの詳細は論文を参照ください。

 

数種の恐竜が羽ばたき飛行に適した結果となった

分析の結果は以下の通りでした。

・トロオドン科…基準値をクリアできた種はいなかった

・ドロマエオサウルス科…ラホナビスとミクロラプトルの2種が2つの基準値をクリア(ただしミクロラプトルの揚力は最大値の場合のみ)

・アンキオルニス科…翼面荷重の基準値は全員クリア。単位重量当たりの揚力値は、シャオティンギアはクリアできず、他は最大値であればクリア

・鳥類…翼面荷重は全員クリア。単位重量の揚力値は最大値であれば全員クリア。最小値であってもクリアできた種もいる。

 

以上のことから、鳥類以外にも、ドロマエオサウルス科やアンキオルニス科には、動力飛行ができた可能性がある種がいたことが分かりました。

 

アンキオルニスは動力飛行できたか?

この論文を読んでいて特に興味深く感じたことは、アンキオルニスがこの2つの項目で基準値をクリアしたという事でした。アンキオルニスには左右非対称の風切羽がありませんでした(この論文でも指摘されていました)。現生種で飛べる鳥たちは皆初列風切羽の形が左右非対称になっています。そのため、この2つの項目をクリアしていても実際には飛べなかった可能性があります。ただ、飛ぶためには本当に初列風切羽は左右非対称である必要はあるのかについては、現在でも議論が続いています(Dyke et al. 2013、Wang et al. 2017)。もしアンキオルニスが動力飛行できたとしたら、「飛べる鳥の初列風切羽は左右非対称」というこれまでの定説が覆るかもしれません。今後の進展を注視したいと思います。

 

最後に

今回、鳥が出現する以前から、動力飛行を行った恐竜がいた可能性があるという事を紹介しました。なお、この記事では羽ばたき飛翔に関する部分だけを紹介しましたが、Pei et al. (2020)はその他にも今回取り上げた分類群の系統樹の再構成なども行っています。興味がありましたら、是非ご覧になってください。

 

参考文献

Dyke G, Kat de R, Palmer C, Kindere der van J, Naish D & Ganapathisubramani B (2013) Aerodynamic performance of the feathered dinosaur Microraptor and the evolution of feathered flight. Nature Commun 4 2489 doi: 10.1038/ncomms3489; pmid: 24048346

 

Pei R, Pittman M, Goloboff A P, Dececchi A T, Habib B M, Kaye G T, Larsson E C H, Norell A M, Brusatte L S & Xu X (2020) Potential for Powered Flight Neared by Most Close Avialan Relatives, but Few Crossed Its Thresholds, Current Biology, https://doi.org/10.1016/j.cub.2020.06.105

 

Wang X, Nudds L R, Palmer C & Dyke J D (2017) Primary feather vane asymmetry should not be used to predict the flight capabilities of feathered fossils. Science Bulletin 62 : 1227-1228

 

New insights into the origin of birds (最終閲覧日:2020年8月10日)

http://www.bris.ac.uk/news/2014/february/origin-of-birds.html

鳥の姿勢とその進化について

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図1.ハシボソガラス(左)と骨格(右)

鳥は人間と同様二足歩行で地上を移動します。しかし、立っているときの姿勢は違います。鳥の足を見ると「くの字」になっており(図1左)、一見、膝が逆方向に曲がっているように見えますが、この曲がっている部分は踵です。なので私たちが普段見ている野鳥の脚は膝より下の部分という事になります。では、太ももはどうなっているのでしょうか?ハシボソガラスの骨格を見ると、大腿骨が骨盤からまっすぐ前へ向かっています(図1右)。これらのことから、鳥はしゃがんだ姿勢で立っていることが分かります。しかしなぜこのような姿勢なのでしょうか。また、鳥たちの祖先である恐竜の姿勢はどうだったのでしょうか?今回これらについて説明したいと思います。

 

鳥の重心は前方ある

ハシボソガラスの骨格の写真を見てみると足より右側と左側では明らかに右側の方が大きな骨で形成されています。鳥たちは飛ぶために発達した翼と胸筋が必要です。そのため、これらを形成するための骨も大きくなります。更に鳥の内臓もほとんどが胸骨に収まっています(ポルトマン2003)。このような体型だと重心も右側の方になります。もし脚がまっすぐ地面に向かう姿勢では簡単バランスを崩してしまいそうです。大腿骨は骨盤から前へ伸ばすことで体を支えることができています。(ポルトマン2003)。そのため、しゃがんだ姿勢になってしまうのです。

因みにですが、鳥は歩行中、太ももも動かしているようです。Heers et al. (2016) で、イワシャコを傾斜を走らせた動画を見ることができますが、太ももが動いていました。

 

恐竜はどうだったか?

このような姿勢になる進化は恐竜の段階で始まっていたと考えられています。Allen et al. (2013) では主竜類16種の骨格をもとに3次元モデルを作り重心位置を分析しました。その結果、ミクロラプトルなど鳥に非常に近縁な種は、重心位置が前方にあった事が分かりました。この事から、エウマニラプトル類(鳥類やミクロラプトルが含まれる分類群)でこのような姿勢の進化が起きたと考えられています。エウマニラプトル類の恐竜たちは相対的に腕が長く、これによって重心位置が変化したのではないかと考察されています。

 

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図3.Allen et al. (2013) の調査対象種の一部を系統樹にプロットした図。重心位置が現生鳥類に近いグループを赤い丸で囲っている。

 

まとめ

今回、鳥の立っている姿勢は人とは異なり、しゃがんだ姿勢をしているという事と、このような姿勢になる進化はマニラプトル類の段階で始まった可能性があるという事を紹介しました。人の感覚で考えると、この姿勢は非常に立ちづらそうな感じがしますが、地上を歩き回り、空を飛び回る体を維持するためには必要な変化であったと思われます。また、鳥は人間とは比べ物にならないくらい長い歴史を持っています。むしろ鳥の体は人間の体よりも二足歩行に適応した形態になっているのかもしれません。

 

参考文献

Allen V, Bates T K, Li Z & Hutchinson R J (2013) Linking the evolution of body shape and locomotor biomechanics in bird-line archosaurs. Nature Vol. 497 104–107

 

Heers M A, Baier B D , Jackson E B & Dial P K (2016) Flapping before Flight: High Resolution, Three-Dimensional Skeletal Kinematics of Wings and Legs during Avian Development. PLos ONE 11 e0153446

 

ポルトマン アドルフ/ 長谷川博訳 (2003) 鳥の生命の不思議 (日本語訳) どうぶつ社 195pp

ミクロラプトルと現生鳥類の翼の性能を比較

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ミクロラプトルの化石

ミクロラプトルは、白亜紀前期に中国に生息していた小型の肉食恐竜です。ミクロラプトルには前肢だけでなく後肢にも羽があり、翼になっていました。この4つの翼を利用して木から木へと滑空していたと考えられています。現生鳥類で後肢も翼になっている種はいません。木から木へ飛び移るくらいの飛翔能力と聞くと現生鳥類と比べてずいぶん劣っている印象を受けますが、ミクロラプトルの翼の性能はどのくらいだったのでしょうか?

 

翼面荷重と揚抗比

翼の性能を「翼面荷重」と「アスペクト比」と2つを用いて、現生鳥類と翼の性能を比較したい思います。

翼面荷重とは翼に加わる単位面積当たりの重量です。飛べない鳥ではこの数値が200N/㎡を超えます(Livezey C B 1990)。これを下回っていなければ、おそらく恐竜も飛ぶことはできないと思われます。また、体の大きさがほぼ同じで、翼面荷重がより大きいと、より速く飛ぶ必要があります(テネケス 1999)。

アスペクト比は翼の細長さを表しています。細長い翼であるほど、この数値は高くなります。また、アスペクト比が高いと、揚抗比も高くなります(テネケス 1999)。揚抗比とは揚力と抗力の比率です。風など「流れ」が当たった時、この流れの垂直方向に作用する力が「揚力」、同じ方向に作用する力が「抗力」です(図1)。抗力に対して、揚力が大きいと、揚抗比の数値が高くなり、エネルギーを節約して飛ぶことができるようになります(テネケス 1999)。

 

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図1.鳥が飛んでいるときに生じる力とその方向

速く飛べそうだがエネルギー消費が大きい翼

ミクロラプトルの体重は約1㎏あったと考えられています (Chatterjee & Templin 2007)。なので、体重が0.8~1.1㎏の鳥と、翼面荷重とアスペクト比を比較しました。また、一部は揚抗比も比較しました。

ミクロラプトルの翼面荷重は、飛べなくなる数値(200N/㎡)を大きく下回っており、ほぼ同じ大きさの鳥たちとでは、比較的大きい部類でした。一方、アスペクト比は比較的小さいようです(表1)。ノスリアスペクト比が近いようですが、揚抗比は倍近く違っています。ミクロラプトルの揚抗比は、Dyke et al. ( 2013)でモデルを作って実験した結果、安定した状態で飛んだ場合、揚抗比が最大4.6になりました。一方、ノスリの揚抗比は10あります。

これらの結果から、ミクロラプトルの翼は現生種と比べて、滑空だけならほぼ同等以上の速さで飛べるものの、エネルギーの消費が大きい翼だったと推測されます。

 

表1.ミクロラプトルと体重が0.8~1.1㎏の鳥の翼面荷重とアスペクト比、揚抗比一覧。ミクロラプトルの翼面荷重とアスペクト比は、Chatterjee & Templin (2007) 、揚抗比はDyke et al. ( 2013)を引用。現生種のデータはテネケス(1999)を引用して計算したもの。

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まとめ

ミクロラプトルと現生鳥類で翼の性能を比較すると、翼面荷重はほぼ同じではあるものの、アスペクト比や揚抗比は小さいので、全体的な翼の性能は現生鳥類ほど洗練していないということが分かりました。

元々、ミクロラプトルの翼は現生鳥類ほど洗練されていないと言われていたので、おそらくこのような結果になるだろうと予想してはいましたDyke et al. ( 2013)。しかし、比較する前は、ミクロラプトルの翼面荷重はもっと飛べない鳥たちに近い数値になるのかなと予想していたのですが、比較してみるとそんなことはなく、それどころか猛禽類やカモメなどに近い数値だったので、個人的にはこの結果は少し意外に感じました。エネルギーを節約して飛ぶことはできなかったものの、想像以上に発達した翼を持っていたんだなと思いました。

今後また、翼をもった恐竜と現生鳥類で翼の性能を比較してみたいと思います。

 

参考文献

Chatterjee S, Templin RJ (2007) Biplane wing planform and flight performance of the feathered dinosaur Microraptor gui. Proc Nat Acad Sci USA 104:1576–80.

 

Dyke G, Kat de R, Palmer C, Kindere der van J, Naish D & Ganapathisubramani B (2013) Aerodynamic performance of the feathered dinosaur Microraptor and the evolution of feathered flight. Nature Commun 4 2489 doi: 10.1038/ncomms3489; pmid: 24048346

 

Livezey C B (1990) Evolutionary morphology of flightlessness in the Auckland Islands Teal. Condor 92: 639–673

 

テネケス ヘンク/ 高橋健次訳 (1999) 鳥と飛行機どこがちがうか―飛行の科学入門 (日本語訳) 草思社 201pp

恐竜は換羽をしていた!? 換羽パターンから恐竜の行動を分析

恐竜にも羽毛があったことが、化石記録から明らかになってきています。中には風切羽を持ち飛ぶことができたと考えられている種もいます。更に、今月、学術雑誌の「Current Biology」に掲載された論文のKiat et al.(2020)では、換羽も行っていたのではないかと報告されています。換羽とは、その名の通り羽が生え換わることです。羽はずっと使い続けていると、摩耗や紫外線による曝露などで劣化します。飛翔能力や保温など羽や羽毛の機能を維持し続けるため鳥たちは一生の間に何度も羽を生え換える必要があります。そして、このような事を恐竜たちも行っていたようです。今回、この論文紹介を中心に換羽していたと言われている恐竜がどんな恐竜であったかを説明したいと思います。

 

換羽をしていたと考えられている恐竜 ミクロラプトル

この論文で取り上げられていた恐竜は「ミクロラプトル」という恐竜です。ミクロラプトルはその名の通り、恐竜としては小さい部類で、全長は約77㎝でした(Xu et al. 2003)。この恐竜には四肢に翼があり、これらを使って、木から木へと滑空することができていたと考えられています(Dyke et al. 2013)。

この恐竜の右腕の羽が生えている部分で、羽と羽の間に隙間があります(図1)。Kiat et al.(2020)では、この部分は換羽中だったのではないかと説明されています。図1の隙間になっているところの左の方を見ると短い羽の痕跡が見られます。この羽の先端部分は、ほかの長い羽と形が似ており、この事から、この短い羽は生え換わろうとしている新しい羽ではないかと説明されています。また、この隙間には数枚羽があり、内側に行くほど長くなっていました。もしこれが換羽だったとするなら、ミクロラプトルは徐々に羽を生え換える方法で換羽をしていたのかもしれません。

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図1.ミクロラプトルの化石標本。換羽の途中と考えられているところはで示している。

 

換羽パターンと飛翔能力の関係

また、Kiat et al.(2020)では、飛べない鳥51種(古顎類やペンギン目)、換羽期間中は飛べなくなる鳥61種(カモ目やツル目の一部など)、換羽期間中でも飛べる鳥190種(ハト目やスズメ目など)の換羽パターンを収集しています。換羽パターンは以下の3つに分けています。

①徐々に羽が生え換わるパターン

②1度に羽を抜いてしまうパターン

③換羽の順番や規則性を持たないパターン

その結果、③のパターンを持つのは、飛べない鳥だけで、②のパターンを持つのは、飛べない鳥と換羽期間中は飛べなくなる鳥に見られました。そして換羽期間中であっても飛べる鳥たちのほぼすべてが①でした。

このような結果になったことについて、Kiat et al.(2020)は次のように考察 しています。①のパターンになった鳥たちは常に捕食者から飛んで逃げる必要があります。また、採餌でもこのパターンの鳥の中には飛びながら獲物を捕まえている種もいます。なので、換羽期間中であっても飛翔能力は維持し続ける必要があります。一方、②③の鳥たちは潜水をするなど、飛ぶ以外にも逃げるすべを持っている種や、沼地や草原のように植生が密になっている環境や捕食者がいない島に生息している種などが多くいます。採餌方法も飛びながら行う種はほぼいません。そうしたことから、通年飛び続ける必要がある鳥たちは①のパターン、一時的に飛べなくなっても捕食から逃げる方法や採餌方法を持つ鳥たちは②のパターンになるのではないかと考えられます。

しかし、いくら飛ぶ以外にも逃げる方法や採餌方法を持っているとはいえ、飛翔能力を維持できるなら、そうしておいたほうがいいように思えます。②のパターンがあるのは、これらの種は翼が短く、少しでも羽がなくなると飛翔能力を失ってしまい、①のパターンでは飛翔能力を喪失する時間が長くなるため、一度に羽を換えてしまい飛べない期間を短縮させているのではないかという説や、この方法で換羽する鳥たちは換羽によるエネルギー量が非常に大きいので、飛べなくなることで、飛翔に使っていたエネルギーを換羽に回している のではないかといった説などがあります(Guillemette et al. 2007)。飛べなくなるのにはこのようなやむを得ない事情があるのかもしれません。

 

ミクロラプトルは換羽期間中であっても飛び続ける恐竜だった!?

そして、Kiat et al.(2020)ではミクロラプトルの行動についても言及しています。ミクロラプトルの換羽パターンは①に似ており、換羽期間中であっても飛び続けていた恐竜だったのではないかと説明されています。

ミクロラプトルがいたころは、様々な肉食恐竜が地上に君臨しており、中には全長10m近くある種もいました。このような捕食者から身を守る必要があります。また、別の研究ではミクロラプトルは鳥や魚を捕食していたことが分かっています(O’Connor et al. 2011、Xing et al. 2013)。現生の猛禽類のように飛びながら獲物を捕まえていたのかもしれません。これらのことを考えると、換羽期間中であっても樹上を滑空し続ける能力が必要だった可能性は十分あり得るように思えます。

但し、①のパターンは両翼で同じように換羽がされます。この化石標本は左翼の羽の部分が欠損しているため、左翼がどのようになっていたのか分かりません。もし左翼で換羽がされていなければ、③のパターンという事になります。

 

まとめ

ミクロラプトルは、その化石標本から換羽をしていたと考えられ、この事から恐竜の段階から換羽が行われていたことが示唆されるという事と、ミクロラプトルの換羽パターンは、現生の換羽期間中でも飛べる鳥と同じパターンであることから、ミクロラプトルも換羽期間中でも飛ぶことができ、また、飛んで捕食者から逃げたり、獲物を捕獲していた恐竜であった可能性が高い事を説明しました。恐竜や絶滅した鳥類の飛翔能力を研究するとき、多くの場合が羽の形や翼や胸骨の大きさなどが取り上げられていますが、「換羽」という視点で検証するのはとても面白いと思いました。ミクロラプトルの換羽パターンは、今回の研究で①と決まったわけではありません。しかし、内側へ行くほど羽が長くなるという傾向や、これまでの先行研究から、滑空ができたことが示唆されていることから(Dyke et al. 2013)、①か③なら、①だったのではないかと思っています。いずれにせよ、恐竜の換羽パターンに関する研究は始まったばかりです。今後どのようなことが明らかになってくるのかとても楽しみです。

 

 

参考文献

Dyke G, Kat de R, Palmer C, Kindere der van J, Naish D & Ganapathisubramani B (2013) Aerodynamic performance of the feathered dinosaur Microraptor and the evolution of feathered flight. Nature Commun 4 2489 doi: 10.1038/ncomms3489; pmid: 24048346

 

Guillemette M, Pelletier D, Grandbois M J & Butler J P (2007) Flightlessness and the energetic cost of wing molt in a large sea duck. Ecology, 88 11 2936–2945

 

Kiat Y, Balaban A, Sapir N, O’Connor K J, Wang M & Xu X (2020) Sequential Molt in a Feathered Dinosaur and Implications for Early Paravian Ecology and Locomotion. Current Biology doi :https://doi.org/10.1016/j.cub.2020.06.046

 

O’Connor J, Zhou Z & Xu X (2011) Additional specimen of Microraptor provides unique evidence of dinosaurs preying on birds. PNAS Vol.108 19662-19665

 

Xing L , Persons IV S W , Bell R P , Xu X , Zhang J , Miyashita T , Wang F & Currie J P (2013) Piscivory in the feathered dinosaur. Microraptor. Evolution. 67, 2441–2445

 

Xu X, Zhou Z, Wang X, Kuang X, Zhang F & Du X. (2003) Four-winged dinosaurs from China. Nature 421 6921 : 335–340