the kisuke3-5のブログ

主に鳥や恐竜について書いていきたいと思っています。まだ勉強中の身です。よろしくお願いします。

始祖鳥命名160周年

1861年9月30日、Archaeopteryx lithographicaが初めて学術論文に掲載されたそうです。日本では「始祖鳥」とよく呼ばれていると思いますが、これが始祖鳥の学名と種小名です。今日で160年が経ちました。

今回、始祖鳥について少し紹介したいと思います。

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始祖鳥の化石の1つで「ロンドン標本」と言われているもの。1861年に発見された

撮影場所:恐竜センター

 

生物が進化していることを示した1つの証拠

1859年にチャールズ・ダーウィンが「種の起源」を発表しました。これは「現存するすべての生物は、遠い昔に誕生した1種類の生物の子孫で、長い時間をかけ様々な変化を遂げて今日に至っている」という事を説明しています[1]。これに対して「もしそうなら現生種と祖先の種をつなぐ中間的な生物の化石が見つからないのはおかしい」という反論もありました。始祖鳥はこれに対する1つの回答となりました。始祖鳥の化石を見ると、鳥類の特徴である羽毛や叉骨が見られます。一方で爬虫類の特徴である長い尻尾などもあります。始祖鳥は「鳥類と祖先(爬虫類)をつなぐ中間的な生物」と言えそうです。その後1870年にトマス・ハスクリーによって、鳥類は恐竜から進化したのではないかと説が出てきました[2]。それから世界中で様々な化石が発見され、これらの研究によって、「鳥は恐竜である」という説が定説となったのです。

 

いつ頃いたのか?

始祖鳥の化石は約1億5000万年前の地層から見つかっています。この時代は中生代ジュラ紀後期に当たります。生息場所は違いますが、アロサウルスブラキオサウルスも大体この時代にいました。ティラノサウルストリケラトプスなどはこれよりもずっと後の時代の恐竜たちです。鳥類は一部の恐竜から進化したと考えられていますが、隕石が落ちてきて、大量絶滅が起きるよりずっと前から地球に出現していたのです。

因みに脊椎動物には魚類、両生類。爬虫類、哺乳類、鳥類がありますが、これらのグループの中で最も後の時代に出現したのが鳥類です

 

体の大きさは?

始祖鳥の化石はこれまでにもたくさん発見されていて、体の大きさも個体によって違いますが、ベルリン標本に関しては、生きていたころは体重250gほどだったのではないかと考えられています[3]。現生鳥類で行くとキジバトなどがこれに近いです。こういう話をすると、「始祖鳥って意外と小さかったんだね!」と言われたりしますが、皆さんのイメージ的にはどうだったでしょうか?

 

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始祖鳥の化石の1つで「ベルリン標本」

飛べたのか?

始祖鳥の飛翔能力は、飛ぶことはできたけど、ハトほどうまくは飛べなかったと考えられています。飛ぶためには大きな翼と発達した胸部の筋肉が必要です。始祖鳥には大きな翼はあったものの[4]、胸部の筋肉は現生鳥類ほど発達していなかったので[5]、恐らく短距離を移動するくらいの飛翔能力だったのではないかと考えられています。

 

最初の鳥ではない⁉

始祖鳥は現在知られている中では最古の鳥ですが、現生鳥類の直接の祖先ではなかったと考えられています。現生鳥類と始祖鳥の共通祖先が最初の鳥とされています。また、ここ25年、中国などで羽毛恐竜の化石がよく発見されています。中には始祖鳥よりも古い時代の地層から見つかった種もおり、こうした恐竜も鳥類に含まれるのではないかという研究も出ています[6]。

 

 

以上、始祖鳥について紹介してきました。これを読んでくださった方が、始祖鳥に少しでも興味を持っていただけたなら幸いです。因みに、始祖鳥の飛翔能力については、以前こちらで記事を書いておりますので、もしよければこちらもご覧になってください。

db3.bird-research.jp

 

参考文献

[1] チャールズ・ダーウィン(著) 夏目 大(訳) (2012)超訳 種の起源 ~生物はどのように進化してきたのか 技術評論社 248p

 

[2] Huxley T H (1868) On the animals which are most nearly intermediate between birds and reptiles. Ann Mag Nat Hist 4th 2: 66–75.

 

[3]Wellnhofer P (2008) ARCHAEOPTERYX: Der Urvogel von Solnhofen Pfeil, Dr. Friedrich 256P

 

[4] Yalden DW (1971) The flying ability of Archaeopteryx. Ibis 113(3):349-356

 

[5]Walter JB (2013) The Furcula and the Evolution of Avian Flight Paleontological Journal 47:1236–1244

 

[6] Pei R, Pittman M, Goloboff A P, Dececchi A T, Habib B M, Kaye G T, Larsson E C H, Norell A M, Brusatte L S & Xu X (2020) Potential for Powered Flight Neared by Most Close Avialan Relatives, but Few Crossed Its Thresholds, Current Biology, https://doi.org/10.1016/j.cub.2020.06.105

アンキオルニスは飛べたのか?

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アンキオルニスの復元図。色は(Li et al.2010)で復元されたパターンに基づいている。著作者:Matt Martyniuk氏 

アンキオルニスAnchiornis huxleyiは、2009年に中国で発見された羽毛恐竜の1種です(Hu et al. 2009)。始祖鳥が見つかった地層よりも古い時代の地層から見つかっており、それまで、鳥類の恐竜起源説の矛盾の1つとして指摘され続けてきた「始祖鳥よりも古い時代に生きていた羽毛恐竜の化石が見つかっていない」を解消した非常に大きな発見でした。また、アンキオルニスの羽毛の色を分析した研究もされました(Li et al. 2010)。

そして、アンキオルニスには羽弁を形成した羽毛の痕跡が腕の周辺に見られており、鳥類やミクロラプトルのように飛ぶことができた可能性があります。では、アンキオルニスの飛翔能力はどのくらいだったのでしょうか。今回、鳥類やミクロラプトルなどと比較しながら解説していきたいと思います。

 

地面から離陸するのは困難!?

結論から先に行ってしまうと、始祖鳥やミクロラプトルもハトほどうまく飛ぶことはできなかったと考えられていますが、アンキオルニスはそれよりももっと飛翔能力は低かったと考えられています。

始祖鳥やミクロラプトルの飛翔能力については、もしよければこちらをご覧ください。

db3.bird-research.jp

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アンキオルニスは、地面から離陸することがかなり困難だったかもしれません。この事について分析した研究が3つあります。

まず、Dececchi et al. (2016) では、羽毛恐竜の体の大きさや、現生鳥類のデータをもとに、羽ばたいて走行した場合、離陸ができるだけの揚力を生み出すことができたのかなどを検証しています。この研究ではアンキオルニス2個体も対象となっていました。そのうちの1個体は、重力に勝てるほどの揚力を生み出すことはできないという結果になりました。もう一方は翼も使って5.1m/sで走れば揚力値が重力以上になる個体もいるという結果でした。一方、現生鳥類はもっと遅くても離陸することができています。また、この研究では始祖鳥やミクロラプトルについても分析されており、これらの種ももっと遅くても離陸できた可能性があるという結果になっています。

次にShahid et al.(2019)ですが、この研究では、アンキオルニスの翼の3Dモデルを設定し、揚力や抗力を計算しています。これらの結果は、平面上だとアンキオルニスが8m/sで走行したとしても、追い風が吹かないと滑空できないというものでした。

最後に、Pei et al. (2020) では、エウマニラプトル類の恐竜たちが自力で飛翔できたのか、胸部の筋肉量などの情報を使って検証されていています。以前、このブログでも紹介したことがあるので、詳しくはこちらをご覧ください。

urvogel3-5.hatenablog.com

この研究だとアンキオルニスは胸部の筋肉が287 W/kg発揮できれば、離陸できるという結果になっていました。ただ、この研究では、胸部の筋肉量を体重の10%で計算しており、アンキオルニスにそれほどの筋肉が胸部にあったか定かではありません。始祖鳥の胸部の筋肉は200gの個体で2gほどだったという報告もあります(Walter 2013)。飛べる鳥だと、胸部の筋肉は体重の10%以上ある種は多々いますが、この違いは竜骨突起の有無があります。始祖鳥やアンキオルニスには竜骨突起はありません。そうなってくるとアンキオルニスの胸部にそこまで筋肉がなかった可能性もあります。

 

飛ぶことができそうな翼

一方、飛べそうな翼を持っていた可能性は十分あると思っています。アンキオルニスの翼面荷重は飛ぶことができないとされる閾値をクリアしていました(Dececchi et al. 2016, Pei et al. 2020) 。地面からの離陸が困難であるなら、何らかの方法で木に登り、木々を滑空するといったことはできたかもしれません。しかし、鳥類やミクロラプトルと違って、初列風切羽は左右対称の形をしていました (Hu et al. 2009) 。初列風切羽が左右対称でも飛翔はできる可能性はあるものの (Dyke et al. 2013)、左右非対称の形の方が羽ばたきに適していると考えられています。また、初列風切羽は長さも短かったこともあり、翼の形状が鳥類とは少し違っています (Longrich et al. 2012) 。これらの事から、鳥類やミクロラプトルに比べると性能は劣っていたと考えられます。

 

最後に

今回、アンキオルニスの飛翔能力についてまとめました。先述の通り、アンキオルニスは始祖鳥よりも古い時代に生きていた恐竜です。アンキオルニスよりも始祖鳥の方が飛翔に適した形態だったというのはとても興味深く思います。鳥類の飛翔能力がどのような段階を経て進化しているのかを知るには、アンキオルニスの研究は欠かせないと思います。今後の研究の進展を注目していきたいと思います。

 

参考文献

Dececchi T A, rsson H C E, Habib M B(2016) The wings before the bird: an evaluation of flapping-based locomotory hypotheses in bird antecedents. PeerJ 4: e2159

 

Dyke G, Kat de R, Palmer C, Kindere der van J, Naish D & Ganapathisubramani B (2013) Aerodynamic performance of the feathered dinosaur Microraptor and the evolution of feathered flight. Nature Commun 4 2489 doi: 10.1038/ncomms3489; pmid: 24048346

 

Hu D, Hou L, Zhang L, Xu X (2009) A pre-Archaeopteryx troodontid theropod from China with long feathers on the metatarsus. Nature 461 (7264): 640–643.

 

Li Q, Gao K Q, Vinther J, Shawkey M D, Clarke J A, D'Alba L, Meng Q, Briggs D E G, Prum O R (2010) Plumage color patterns of an extinct dinosaur. Science 327 (5971): 1369–1372

 

Longrich N R, Vinther J, Meng Q, Li Q & Russell P A (2012) Primitive wing feather arrangement in Archaeopteryx lithographica and Anchiornis huxleyi. Curr Biol 22: 2262–2267.

 

Pei R, Pittman M, Goloboff A P, Dececchi A T, Habib B M, Kaye G T, Larsson E C H, Norell A M, Brusatte L S & Xu X (2020) Potential for Powered Flight Neared by Most Close Avialan Relatives, but Few Crossed Its Thresholds, Current Biology, https://doi.org/10.1016/j.cub.2020.06.105

 

Shahid F, Zhao J & Godefroit P (2019) Aerodynamics from cursorial running to aerial gliding for avian flight evolution. Appl Sci 9: 649.

 

Walter JB (2013) The Furcula and the Evolution of Avian Flight Paleontological Journal 47:1236–1244

鳥の祖先の小脳の進化について

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鳥の脳の概略図。Northcutt(2011)を参考に描いた。

鳥が飛ぶためには胴体の構造だけでなく、脳の構造も重要です。鳥類は爬虫類から進化しましたが、「頭蓋内の体積/体重」の数値を比較した場合、鳥類は爬虫類の3倍以上もあります(Alonso et al 2004)。

特に「小脳」という運動能力と深くかかわっている部分の発達が重要と考えられています(黒田1986)。鳥は羽ばたき飛翔や滑翔、ホバリング(移動せず空中に滞在する運動)などを行いますが、こういったことをするためには小脳が重要な役割を果たしているのかもしれません。

 

恐竜の中にも飛べたのではないかと考えられている種がいますが、 恐竜たちの脳はどうだったのでしょうか?

因みに、飛べたと考えられている恐竜についてはこちらをご確認ください

urvogel3-5.hatenablog.com

 

恐竜の段階で進化していた?

Balanoff et al (2013)では、頭骨のCTデータを使って獣脚類の頭蓋内の体積を出しました。その結果、絶滅したマニラプトル類は現生鳥類と比較して、体重に対する脳の大きさは小さいですが、脳全体に対する小脳の大きさがほぼ同じという結果になりました。飛翔に適した脳の進化はマニラプトル類の段階で生じていたことが伺えます。この研究では、ミクロラプトルやアンキオルニスなど発達した翼を持った恐竜たちは含まれていませんでしたが、恐らく結果はそれほど変わらないのではないかと推測します。

そして、さらに後になって脳が拡大する進化が起こったと考えられます。

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獣脚類の分岐図(概略)。


どのくらい大きな小脳が必要なのかが課題

この研究では、脳自体は現生鳥類より小さい傾向という結果です。なので、飛翔に適した小脳の大きさがどのくらいなのかを分析することで、これらの恐竜たちが飛翔に適した脳を持っていたのか検証できると、個人的には思います。飛翔の起源がいつなのかを知る手がかりの1つになると思うので、今後の研究の進展に注目したいです。

 

 

参考文献

Alonso D P, Milner C A, Ketcham A R, Cookson J M & Rowe B T (2004) The avian nature of the brain and inner ear of Archaeopteryx Nature 430 666–669

 

Balanoff A, Bever G, Rowe T, & Norell A M (2013) Evolutionary origins of the avian brain. Nature 501 93–96

 

Northcutt G R (2011) Evolving Large and Complex Brains Science 332 6032 926-927

 

栃木県立博物館編集 (1986) 鳥類と哺乳類の計測マニュアル(Ⅰ) 栃木県立博物館 78pp

鳥が飛べるのは手と脚と尾を独自に動かせるから!? では恐竜は…?

鳥は歩いてるとき、腕(翼)を動かしたりしません。一方、飛ぶときは足を動かしません。手と足は完全に独立して動かしていることが分かります。また、尾も独自の運動をすることができています。Gatesy & Dial (1993)では、ハトが離陸するときとその前後での腕、脚、尾の筋肉の動きを、心電図を使って測定しました。その結果、尾は翼や脚とは全く異なる波形を示しており、独自の運動をしていることが分かりました。

しかし、すべての動物が腕、脚、尾が独立しているとは限りません。例えば四足歩行で両生類のサンショウオでは、前肢と後肢の筋肉は運動中ほぼ連動していました(Gatesy & Dial 1996)。初期の陸生動物は腕や脚、尾が独立して運動できるような形態を持ってなく、後になって、進化の過程の中でそのような機能を獲得したと考えられています。

この様に3つのパーツが独自の運動ができるようになることは飛翔をするうえでも欠かせない事と考えられています。もしこのような体の構造になっていなければ、飛行中に脚も動いてしまうなどして、うまく飛ぶことはできなかったかもしれません。

では鳥の祖先である恐竜はどうだったのでしょうか?

少し古い研究ですが、今回これについて紹介したいと思います。

 

初期の恐竜は鳥とは違う?

Gatesy & Dial (1996)では、エオラプトルやヘレラサウルスなどといった初期の獣脚類について考察しています。これらの恐竜たちは鳥とは少し異なる構造で、腕と脚は独立して運動できたが、脚と尾は連動していたという説明されています。

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ヘレラサウルス(左)とスズメ(右)の運動モジュールの数と分布を赤で示した図

 

 

これらの恐竜たちは脚に対して腕がそれほど長くないことから、二足歩行をしていたと考えられていります。この事から腕と脚は独立していたのではないかと説明されています。一方、脚と尾ではこの2つをつなぐ非常に発達した筋肉があったのではないかと考えられています。恐竜の大腿骨には第四転子という突起があります。これは現在のワニにもあり、この突起と尾は非常に発達した筋肉でつながっています。ワニも後肢と尾は連動しており、そうした事から、これらの恐竜たちも後肢と尾は連動していたと説明されています。

尚、鳥には第四転子はなく、大腿骨と尾をつなぐ筋肉も縮小しています。

 

マニラプトル類はどうか?

初期の恐竜から鳥が出現するまでの間で、脚と尾が独立して運動できるような形態になる進化が起きたことが伺えます。ではそれはいつ頃だったのでしょうか?

恐らくですが、マニラプトル類が出現した段階でそのような進化は起きていたと思われます。デイノニクスや始祖鳥には第四転子があったという報告はありません。また、これらのグループは尻尾の骨自体も他の獣脚類と比べて細い作りになっています(Gatesy fig.7)。更に、はコエルロサウルス類全般に言えることかもしれませんが、尾の骨の数も少なくなっています(Gatesy & Dial 1996 fig.6)。コエルロサウルス類では、ティラノサウルスなど第四転子があった種もいました。なのでコエルロサウルス類の中でも一部の恐竜が第四転子を消失し、尾も細く短くなるような真価が起きたものと考えられます。

そうした事から、マニラプトル類では鳥類と同様3つのパーツに分かれていたと推測します。

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ティラノサウルスの大腿骨周辺。第四転子を赤い○で囲った


 

 

まとめ

今回、鳥は翼(腕)、脚、尾が独立して運動することができる形態をしていること、初期の陸生脊椎動物や恐竜はこのような形態ではなかったこと、しかしマニラプトル類の段階では鳥のような形態を獲得していた可能性があることについて説明しました。

マニラプトル類に中にはミクロラプトルやアンキオルニスなど飛ぶことができたと示唆されている恐竜もいます。こういった恐竜たちの脚や尾はどんな構造をしているのか、機会があれば確認したいと思います。

 

参考文献

Gatesy M S (1990) Caudefemoral musculature and the evolution of Theropod Locomotion Paleobiology. 16 2 170-186

 

Gatesy M S & Dial P K (1993) Tail muscle activity patterns in walking and flying pigeons (Columba livia). J. exp. Biol. 176 55–76

 

Gatesy M S & Dial P K (1996) Locomotor modules and the evolution of avian flight. Evolution. 50 1 331-340

 

鳥の祖先に関する研究史 その2

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シノサウロプテリクスの化石体の周を覆う羽毛の痕跡が見つかった。

 

先日、「鳥の祖先に関する研究史 その1」と題して、1970年代までの主な研究についてブログに書きました。

urvogel3-5.hatenablog.com

今回はそのあとどのような研究があったかを書きたいと思います。

 

羽毛恐竜の発見

1996年、中国遼寧省で小型のコエルロサウルス類の化石が見つかりました。この恐竜には「シノサウロプテリクス(中華竜鳥)Sinosauropteryx prima」と命名されました(1)。シノサウロプテリクスの体の周りには羽毛の痕跡が見られます。この事から、恐竜にも羽毛があったことが分かりました。羽毛がある動物は鳥だけでしたので、この発見は鳥の祖先が恐竜であることをほぼ決定的にするような発見でした。更に2009年には始祖鳥がいたときよりもさらに前の時代の地層から羽毛が生えた恐竜の化石が発見されています。この恐竜には「アンキオルニス Anchiornis huxleyi 」と命名されました。種小名は、恐竜起源説を最初に唱えたトマス・ハスクリーからとっています(2) 。

 

前肢の指の矛盾点

鳥の祖先は恐竜ではないかと示唆される化石がたくさん出ていましたが、それでも1つこの説が事実なら大きな矛盾点となるものがありました。それが前肢の指です。鳥も、多くのコエルロサウルス類も前肢の指は3本ですが、指の番号が違うと指摘されていました。恐竜は人間でいう「親指・人差し指・中指」と考えられています。初期の恐竜には5本指がありあしたが、薬指と小指は進化の過程で喪失していることが発掘された化石から示唆されています。一方、鳥の方は発生学では「人差し指・中指・薬指」と考えられてきました。これが大きな矛盾となるという事が指摘されてたのです。

しかし、2011年に東北大学の研究によって、鳥の指も恐竜と同様「親指・人差し指・中指」であることが分かりました。この研究ではニワトリの指の発生過程について調査されています。前肢にはZPAという領域があります。発生段階の中で、指の番号が決まる時期があり、この時期にZPAにある指は薬指化小指になります。しかしニワトリの指はこの段階ではZPAにはありませんでした(3)。

以上の事から、大きな矛盾点が解消され、恐竜が鳥の祖先であるという説は、覆すことが極めて難しいほどの定説となりました。

 

まとめ

1861年に始祖鳥の化石が発見されて以来、鳥の祖先は恐竜ではないかという説について、様々な研究がされてきました。1996年以降、中国などで羽毛をまとった恐竜の化石が複数発見されるようになり、この説はかなり有力なものとなりました。そして、この説の矛盾点だった前肢の指の番号の問題も解決され、この説は覆すことが難しいものとなりました。

この事をブログに書くにあたっていろいろな文献を読みましたが、これが定説になるまでには、世界中のたくさんの恐竜研究者の苦労があったのではないかと思いました。また、先日のブログで書きましたが、この説に異論を唱えた研究者もいました。そういった方々がいたから、より議論が深まったのではないかと思います。

この説の研究にかかわったすべての方々に敬意を表します。

 

参考文献

  • Ji Q & Ji S (1996) On discovery of the earliest bird fossil in China (Sinosauropteryx gen. nov.) and the origin of birds. Chinese Geology (Beijing: Chinese Geological Museum) 10 233 30–33.

 

  • Xu X, Zhao Q, Norell M, Sullivan C, Hone D, Erickson G, Wang X, Han F & Guo Y (2009) A new feathered maniraptoran dinosaur fossil that fills a morphological gap in avian origin. Chin Sci Bull 54 430–435 https://doi.org/10.1007/s11434-009-0009-6

 

恐竜の研究をあきらめる前に考えてみてほしいこと(個人意見です)

恐竜の研究をすることや、更にそれを職にしたいと考えている人は少なくないのではないかと思います。しかしそういった方は、それは非常に難しいと、親や先生、或いは研究者から直接言われたこともあるのではないでしょうか。実際私自身、10代の時にそういわれてきました。

もし、そういったことを言われたり、或いは人には言われていないけどそのように感じたりして、恐竜の研究をあきらめようとしているなら、1度試してみてほしいことがあります。

今回は、昔の自分に言うつもりで書いてみました。もしかつての自分と同じことで悩んだり苦しんでいる方の力になれば、とてもうれしく思います。

 

 

何を試してほしいかというと、それは…

 

鳥を研究する

 

という事です。

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あくまで古生物に拘るのであれば、試しても意味がないかもしれませんが、あくまで恐竜について研究したいというのであれば試してみる価値はあるのではないかと思います。

 

鳥の知見をもとにした古生物の研究

鳥の運動や行動生態に関する知見は恐竜の研究に応用できる場合もあります。私もこの事は恐竜を研究されている方々に教えて頂きました。

例えば、始祖鳥やミクロラプトルが飛べたのかを研究するには、鳥たちがどうやって飛んでいるのかを理解しておくこと必要があります。

私は、このブログや他のサイトで書いた記事でいくつかそのような研究を紹介しております。

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今後もこのブログでも鳥の情報をもとにした恐竜の研究を紹介していきたいと思っています。

 

そしてなにより、彼らは恐竜です。

もう4年前の話ですが、2016年の日本鳥学会の発表大会が札幌で開催されました。この大会の最終日は「恐竜学者の鳥のはなしと鳥類学者の恐竜のはなし」というシンポジウムで、恐竜や鳥類の研究者たちの話を聞くことができました。最後の質問時間で、「どうしたら恐竜博士になれますか?」という質問があり、この時演者の1人だった川上和人さんが「鳥類を研究することは恐竜を研究することなので是非鳥類学者を目指してほしい」といった回答をされていました(江田&川上 2018)。私もこの考えに賛同しています。

恐竜の定義は「イエスズメトリケラトプスの直近の共通祖先から派生したすべての子孫」とされています。今生きている鳥たちはすべて例外なく恐竜なので、化石を研究することだけが恐竜の研究とは限りません。特に化石にかかわったことがない人にとっては、博物館に収蔵されている恐竜の化石を研究するより、身近にいる野鳥について研究するほうが始めやすいのではないかと私は思います。

 

まとめ

今回、鳥を研究することは、絶滅した恐竜を研究する上で重要になる場合があるという事、また、鳥を研究すること自体が恐竜を研究することであるという話を書きました。

もちろん、鳥を研究する事やそれを職にすることも決して容易なことではありません。

それに、今生きている鳥の研究をするのはやっぱり違うと感じたら、無理して続ける必要はありません。

しかし、視野を広げればその分可能性も上がってくると思います。面白そうだと思いましたら、ぜひ挑戦されてみては如何でしょうか?

 

参考文献

江田真毅、川上和人(2018) 絶滅した恐竜の威を借る現生の鳥類型恐竜!? 日本鳥学会誌 67 1 3-5



 

鳥の祖先に関する研究史その1

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始祖鳥(ベルリン標本)

すみません、最近更新できていませんでした…

今日は「化石の日」ですね

鳥の祖先は恐竜であるという説は今や定説になっていますが、これが定説になるまでにどんな研究があったのか、今回はこれについて書きたいと思います。

 

恐竜起源説は150年前からあった

恐竜起源説の始まりは、1870年にトマス・ハスクリーが出した論文から始まりました(Huxley 1868)。1861年にドイツで始祖鳥の化石が発見され、鳥類は爬虫類から進化した可能性が高いと言われてきました。そうした中でハスクリーは爬虫類の中でも恐竜が鳥の祖先ではないかと発表したのです。

この論文では、それまでに発見されている恐竜の化石と鳥の骨格の共通点をいくつか説明しています。その中の一例で、骨盤の形があります。骨盤で、大腿骨と接する場所を「寛骨臼(かんこつきゅう)」といいます。恐竜と鳥の寛骨臼は穴が開いており、ここに大腿骨の骨の一部が収まるような形をしていました。このような特徴は他の爬虫類にはありません。

ハスクリーの恐竜起源説に対して反論する研究者もいましたが、これを支持する研究者もいました。そして20世紀にはいると恐竜と鳥類に共通点がたくさん見つかってきます。

 

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ハシボソガラスの骨盤。左図の寛骨臼がある場所を赤い○で囲っている。右図は赤い○がある周辺を拡大したもの。

 

一度は否定されるも新たな化石証拠が発見される

鳥類の祖先は爬虫類だったという説は指示するも、恐竜が祖先という説には批判的だった研究者の中にはいました。そうした研究者の意見には「鳥には鎖骨が癒合してできた叉骨があるが、恐竜には叉骨も鎖骨もないから」という主張がありました(Ostrom J H 1973)。首下に鎖骨という骨があります。人の場合は左右に1つずつある骨ですが、鳥はこの鎖骨同士が癒合して「叉骨」という骨になっています。生物は進化の歴史の中で一度消失した体のパーツを再獲得することはほぼないと考えられています。そうした事から、恐竜の化石から叉骨も鎖骨も見つかっていないので、もし恐竜たちがこの骨を持っていなかったなら、これらのグループから鳥が出現する可能性は非常に低いのではないかと考える研究者がいたのです。

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ハシボソガラスの叉骨の位置を赤い○で囲っている。

しかしモンゴルのゴビ砂漠で発見された小型の肉食恐竜の発見により、この反論は否定されます。ヘンリー・オズボーンは、この恐竜には「オヴィラプトル」と命名されました。オヴィラプトルの化石からは鎖骨間という骨があると報告されています(Osborn 1924)。この骨は鎖骨を構成する骨の一部です。この事から、恐竜にも鎖骨があったことが分かりました。ただ、残念ながらオズボーンが論文を出したときは、これはあまり話題にならなかったそうです。そしてさらに後になって、叉骨があった恐竜もいたことが分かりました(Ostrom J H 1973)。

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オヴィラプトルに近縁な種の骨格標本。叉骨を赤い○で囲っている

 

始祖鳥とコエルロサウルス類では手の骨が似ていた!

更に1973年にはジョン・オストロムが、コエルロサウルス類の化石と始祖鳥の化石を比較した論文を発表しました(Ostrom J H 1973)。コエルロサウルス類とは肉食恐竜のグループの1つで、小型の肉食恐竜が多く(例外もいます)、デイノニクスや先ほど紹介したオビラプトルなどがこのグループに含まれています。その結果、始祖鳥とコエルロサウルス類にはいくつか共通点が見つかりました。その一例が手根骨(手首の骨)です。始祖鳥や一部のコエルロサウルス類の手根骨は半円の形をしています。そう言った特徴がある事から、鳥類は恐竜の中でもコエルロサウルス類から進化したと考えられるようになりました。

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始祖鳥の手。手根骨を赤い○で囲っている
 

 

まとめ

鳥の祖先が恐竜ではないかという説は今から150年前からありました。その後、叉骨がある、手の骨の形が似ているなど様々な共通点が骨にあることが分かり、この説は有力になっていきます。

次回、それ以降の研究史についても紹介したいと思っています。興味を持っていただけましたら是非お付き合いください。

 

参考文献

Huxley T H (1868) On the animals which are most nearly intermediate between birds and reptiles. Ann Mag Nat Hist 4th 2: 66–75.

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